8 / 25
事故の記憶
しおりを挟む
私は幼い頃、家族でハイキングに出掛けた際に、土砂災害に巻き込まれたことがある。
天気が急変し、帰ろうとした矢先のことだった。突然、頭上の土砂が私たち一行を飲み込んできたのだ。
奇跡的に私の一家は全員が無事だった。
しかし、この土砂崩れとの関連は不明ながらも、同じ山にハイキングに来ていた男性が1人行方不明になってしまい、懸命な捜索もむなしく、結局見つかることはなかった。
その日、山の周辺では土砂崩れが多発していたため、捜索範囲を特定できなかったことが原因だったらしい。
私は幼かったこともあり、事故当時の記憶がほとんどなかった。
ただ、なんとなく怖い思いをしながらも無我夢中で土から這い上がったのを覚えている。
事故から時間が経ち、私は両親によく当時の話を聞くようになった。
しかし両親は、ショックな出来事だっただろうから無理に思い出さなくていいと、多くは語らなかった。
しばらく経って、小学校のプールの授業を受けていた私は、妙な感覚に襲われた。
「ピッ、ピッ、ピッ」
体操のリズムに合わせて、先生が吹いているホイッスルの音。それが何かを私に訴えかけてくるような気がするのだ。
私は耐えきれずに頭を押さえてしゃがみこんだ。
先生はこちらの様子に気付かず、体操を続けている。
「ピッ、ピッ、ピッ」
しばらく頭を押さえていると、なぜか土砂災害のことがフラッシュバックした。
土砂から必死で抜け出そうと、もがいている自分。
やっとの思いで土から引き上げた右足。
懸命に、ふもとに向かって駆け出していく。
そうだ、あの時、確かに鳴っていた。
でも、助けずにその場を後にしてしまったんだ。
見捨てたことを言えなくて、両親は警察にも話せなかったのだろう。
必死で走る私達の背中で、
助けを信じて鳴り響いていたあの音。
「ピーーーッ」
天気が急変し、帰ろうとした矢先のことだった。突然、頭上の土砂が私たち一行を飲み込んできたのだ。
奇跡的に私の一家は全員が無事だった。
しかし、この土砂崩れとの関連は不明ながらも、同じ山にハイキングに来ていた男性が1人行方不明になってしまい、懸命な捜索もむなしく、結局見つかることはなかった。
その日、山の周辺では土砂崩れが多発していたため、捜索範囲を特定できなかったことが原因だったらしい。
私は幼かったこともあり、事故当時の記憶がほとんどなかった。
ただ、なんとなく怖い思いをしながらも無我夢中で土から這い上がったのを覚えている。
事故から時間が経ち、私は両親によく当時の話を聞くようになった。
しかし両親は、ショックな出来事だっただろうから無理に思い出さなくていいと、多くは語らなかった。
しばらく経って、小学校のプールの授業を受けていた私は、妙な感覚に襲われた。
「ピッ、ピッ、ピッ」
体操のリズムに合わせて、先生が吹いているホイッスルの音。それが何かを私に訴えかけてくるような気がするのだ。
私は耐えきれずに頭を押さえてしゃがみこんだ。
先生はこちらの様子に気付かず、体操を続けている。
「ピッ、ピッ、ピッ」
しばらく頭を押さえていると、なぜか土砂災害のことがフラッシュバックした。
土砂から必死で抜け出そうと、もがいている自分。
やっとの思いで土から引き上げた右足。
懸命に、ふもとに向かって駆け出していく。
そうだ、あの時、確かに鳴っていた。
でも、助けずにその場を後にしてしまったんだ。
見捨てたことを言えなくて、両親は警察にも話せなかったのだろう。
必死で走る私達の背中で、
助けを信じて鳴り響いていたあの音。
「ピーーーッ」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

【完結】共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
魔女の虚像
睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。
彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。
事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。
●エブリスタにも掲載しています
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
月夜のさや
蓮恭
ミステリー
いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。
夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。
近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。
夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。
彼女の名前は「さや」。
夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。
さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。
その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。
さやと紗陽、二人の秘密とは……?
※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。
「小説家になろう」にも掲載中。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
virtual lover
空川億里
ミステリー
人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。
が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。
主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる