上 下
57 / 74

26-3話 有馬和樹 「落ちるなら、みんなで」

しおりを挟む
「ほかには、いくらか財産がありますか?」

 姫野がハビスゲアルに聞いた。

「捕まれば、異端審問にかけられますゆえ、着の身着のまま逃げ出しました。王都の財産は、すでに教会に没収されているかと」

 姫野があきれたように腕を組んだ。

「資金もなく組織作りなんて、よくもまあ……」

 ハビじい、肩をすぼめて今にも消えそうだ。

「姫野、そんなに怒るなよ。怒るっつか、今日は、なんだかキレてるぞ」

 くわっと姫野が、おれを睨んだ。ママ怖え。

「キレるっつの! ドクやゲスオはこれを予想したけど、わたしはないと思ってた」
「えーと、おれが出ていくこと?」
「そう! 民を置いていく王がどこにいるっつうの!」

 おれは言い返せないから、頬をふくらました。姫野の言うことは、もっともだ。

「キング」

 肩を叩かれた。誰かと思えばプリンスだ。

「まあ、あきらめろ。お前が考える以上に、頭脳班は作戦を練ってたようだ。勝てるわけないだろ」

 プリンスの言うことも、もっともだ。いや、でもね、一晩中ハビじいと計画練ったんだよ。今後のことをあれやこれや。

「プリンス、ひょっとして、こうなるの予想してた?」
「してたよ」
「言えよ!」
「まあ、盛り上がってるとこにケチつけるのもな」

 にやっと笑う。くぅ。この里をプリンスに背負わせる、その事に悩んだおれの気遣いを返してくれ!

 プリンスはハビスゲアルに微笑んだ。

「ハビスゲアルさん、このように我らが王を引き抜くのは、無理かと。こちらに入っていただくほうが早い」

 ハビじいは顔を上げた。ひどく、おどろいている。

「吾輩を迎えてくれるのですか? ここに召喚した張本人ですぞ!」
「ハビじい、そこはまあ……」
「うっさい、ボケキング。落ちた張本人も黙ってて!」
「……へい」

 今日のおれ、散々だ。

 姫野は考え込んで、大きく息を吐いた。

「かなり複雑な気分なの。もちろん、召喚なんて、されたくなかったけど」

 そう話し始めたが、また口をつぐんで考え込んだ。それから立ち上がり、うろうろ歩く。

「なんて言うかな。もう一度、あの状況になったら、同じことしちゃうんじゃないかなって……」

 意外な言葉に、おれはおどろいた。おれを最初につかんだのは、姫野だ。

「別に、キングに惚れてるわけじゃないわよ」
「お、おう。それはわかってるよ」

 なんだ? 視界の端の黒宮和夏が、地団駄を踏んだ気がする。姫野はまたうつむいて、うろうろと歩いた。言葉を探しているようだ。

 そして立ち止まった。思いついたようだ。

「そうね、あの時、もし向こうに残されていたら……」

 姫野の言葉にクラスのみんなが、はっとなった。姫野が言葉を続ける。

「何人かが落ちて、何人かが残ったとする。向こうに残った場合、けっこう、キツイ」

 セレイナが、うなずいて口を開いた。

「わかる。残った方は悩むわ。どうして助けられなかったのか。今はどうしているのか」
「それって……」

 友松あやが横から入った。

「それって、けっこう地獄よ。一生、悔やみ続ける人生になるかも!」

 友松あやの言葉に、姫野がうなずく。

「なるほどな。全員が落ちるって、ある意味で正解やったんか」

 同調したのはコウ、根岸光平だ。

「コウは、こっちの世界のほうがいいだろ」

 隣にいたコウの親友、山田卓司が言った。

「あほう、タク、んなワケあるかい」
「コウの転校理由は?」
「借金取りに追われて……あっ、ホンマや」

 みんながくすっと笑った。

「なるほどねぇ。そうなると、キング以外は自分の意志で来た、とも言えらあな」

 大工の茂木あつしが「べらんめい」といった感じで鼻をすすった。

「そうなの。もちろん向こうの家族は可愛そうなんだけど、なんかもう、しょうがないかなって感じに、わたしは最近、思い始めてる」

 姫野の言葉に、クラスのみんながうなずいた。

 みんな、そんな風に考えていたのか。

 おれは27人は自分のせいだと思っていた。だからプリンスに「みんなを守りたい」と最初の夜に相談した。

 ……いや、そりゃ違うのか。おれが守るってものではないのか。みんな互いに守って、そして守られるのか。

 おれが考えにふけっていた横で、当の召喚者は顔をくしゃくしゃにしていた。イスから立ち上がる。

「許されることではありませんが、このハビスゲアル、残りの短い人生を皆様のつぐないに使いたいと存じます」

 そして深々と頭を下げた。どうでもいいけど、後頭部はどうやって剃っているんだろう。

「ハビじい!」
「はっ、キング殿」
「おれが言うのもなんだけどな、過ぎたこと、気にすんな! 友達だし」
「キ、キング殿、前も申しましたが何でも『友達』で解決するのは……」

 姫野が思いついたように言った。

「いいんじゃない? 同じ里、クラスメートみたいなもんでしょ」

 クラスメートか。おれも思いついて、立ち上がった。

「よし! おれは決めたぞ。今、この里にいる全員、子供から、じいちゃん、ばあちゃんまで。今後おれは『クラスメート』と呼ぶ」

 いつの間にか、3年F組の輪の外には人が集まっていた。その人たちから、どっと歓声が沸き起こる。ありゃ、そんなウケる事だったか。

 カラササヤさんが、涙をこぼしながら前に出た。

「キング殿! 仲間と認めていただき、誠に感無量でございます!」

 あっ、そうか。おれらが先にいたから、あとで来た森の民は間借りしてるような気分だったのか。これはいかんな。

「みんな、クラスメート。この里が自分の家な! 好きに使ってくれ!」

 おおっ! と歓声と拍手が沸き起こる。

「クラメート!」
「クラメート!」

 ちっこい双子、同時に間違ってる。もう一つ、前から気になっていた事があったので、それもついでに言ってみる。

「みんな『エルフの隠れ里』って呼ぶのやめないか?」

 みんながうなずく。同じこと思ってたんだな。

「じゃあ、決定。たぶん思ってること同じだな。今日からここは『菩提樹の里』と呼ぼう」

 おれがそう言った瞬間、菩提樹に満開の白い花が咲いた。風に吹かれたように花吹雪も散る。精霊の幻影だ。

 今日一番の大歓声が里に響きわたる。

 ぬうっと精霊が出てきた。

「菩提樹、ぜったい出番狙ってただろ!」
「なにを、無礼な!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】 採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。 ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。 最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。 ――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。 おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ! しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!? モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――! ※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~

桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。 技術を磨くために大手ギルドに所属。 半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。 理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。 孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。 全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。 その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……! その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。 カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。 三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...