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13-1話 喜多絵麻 「妖精とプリンス」

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視点変わります。絵麻ちゃんこと喜多絵麻
ほか登場人物(呼び名)
姫野美姫(ヒメちゃん)
有馬和樹(キング)
坂城秀(ドクくん)
山田卓司(タクくん)
飯塚清士郎(プリンス)
蛭川日出男(ゲスオくん)
友松あや(あやちゃん)
花森千香(花ちゃん)
渡辺裕翔(渡辺くん)

-・-・-・-・-・-・-・-・



 小さい時から、キッチン喜多で接客には慣れている。

 怖そうな男性もいるし、酔っぱらいもいた。でもゴブリンはいない。

 昨晩のゴブリン騒動が終わっても、気持ちは落ち着かなかった。

 あれから結局、一睡もできない。

 朝になったけど、まだ寝てる人が多い。ヒメちゃんに聞いたら、このままでいいって。

「みんな寝れなかったから、プリンスたちが戻ってくるまで寝てていいよ」

 そうキングくんも言ってた。昨晩、キングくんがあわてて駆けつけた時には、もう戦闘は終わってた。

 あれからずっとキングくんは見張りをしてたから、彼も寝てないんじゃないかな。

 お茶でも淹れよう。お茶にできそうな葉っぱをドクくんからもらっている。ヤカンはないけど、村から鍋を持ってきていた。近くの小川に行って洗う。

「おーい」

 声がして立ち上がった。向こうからタクくんこと、山田卓司くんが手を振っていた。ケガもなく、普通に歩いている。あっちに行ったみんなも無事で安心。

 プリンスも……

 プ、プリンス? 思わず鍋を落とした。

 と、とりあえず、一番近くの女子数名を起こそう!

「大変!」
「なに? 絵麻ちゃん」
「プリンスが大変!」
「ケ、ケガでもした?」
「違うの! でも大変!」

 起こした女子数名と戻る。

 プリンスがゆっくり歩いてくる。朝の澄んだ空気の中。一羽の妖精を連れて。

「も、萌える!」
「スマホ撮りたい!」
「いっそ、一眼レフで連写したい!」
「……はぁ、あの妖精と代わりたい」
「そっち!」

 私の言葉にみんなが突っ込んだ。だって、彼のまわりを飛び回って、今は肩に止まって休んでる。

「ぎゃは! 清士郎なにそれ!」

 キングくんの声だ。

 到着したプリンスのまわりに、みんなが集まる。こっちもゴブリンとか話すことはあるけど、とりあえず妖精さんが気になる。

「ほう、何十年ぶりに見るかの」

 その声にみんなが振り向いた。ここまで一緒に来た村長さんだった。

「おじいちゃん、妖精さん知ってるんですか?」
「わしが子供時分には、たまに見かけたがの。最近ではとんと見なくなったわい」

 プリンスの説明では、盗賊に捕まってたとのこと。

「売れば大金になるからのう。じゃが、わしら農家はそんなことせん。妖精がおる森は豊かになるんじゃ」

 妖精さんは、プリンスの服を一生懸命に引っ張っている。必死に引っ張りすぎて、その羽根からキラキラした粉のような物まで落ちている。

「むふぅ! 妖精の粉でござる!」

 ゲスオくんが妖精の下にスライディングするみたいに滑り込んだ。妖精の粉を浴び、両手を広げて雄叫びを上げた。

 ……なにしてるんだろ。

「おおお! これで拙者は空を飛びますぞ!」

 妖精さんがブルブル! と違う動きをして、金色の粉ではなく、赤い粉が出た。

「いかん! それは攻撃の粉じゃ!」

 村長さんが叫んだ。

 赤い粉はゲスオくんの肌に触れるとパチパチ! と火花を上げて弾けた。

 ゲスオくん、両手を広げたまま倒れる。

「あっ! ピーターパン!」

 ピーターパンって、妖精のティンカーベルに粉をふってもらい飛ぶんだった。

 私の声が聞こえたのか、倒れたまま親指をグッ!と上げる。そしてキングが、ゲスオくんの足を持って引きずって行った……。

 ゲスオくんって腕のヒビで添え木をしているのに、元気だ。
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