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第七章
第50話 お城へ!
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「意外と、準備に時間がかかるわね」
わたしはモリーをはさんで、となりにすわっているミランダに言った。
「車じゃねえんだ」
操縦席からボブが言った。いくつものスイッチを入れていく。
「飛ばせそう?」
「ウチが、何代続く運転手だと思ってんだ。あんたが雇った馬の御者とは、ちがうぜ!」
「魔法使いは、わたしじゃない! それに、そのへんはハッキリ思いだせないの!」
「ジャニス、あれも憶えておりませんの?」
ミランダが小声で聞いてきた。
「ほら、おふたりは、ちぎりを結んだこともあるんでしょ?」
言いたいことはわかった。なんて言っていいかわからず、無言で、うなずいた。
「はあ、良かった!」
ミランダは、安堵のため息をついた。暗いからわからないけど、ぜったい、わたしの耳は真っ赤だ。
「なんの話だい?」
「ボブ、早く飛ばしなさい!」
ミランダのお叱りに、ボブは前をむいた。わたしは、抱きついているモリーを見つめ、抱きしめ返した。
「もうちょっと、がんばってね。急いでエルウィンに会わなきゃいけないの」
「明日じゃダメなの?」
「そうね、絶対に今日なの。今日しかないの」
ボブが静かに「行くぞ」と言い、最後のスイッチを押す。ヘリコプターのプロペラが回転しはじめた。ゆっくりと、機体が持ちあがる。
「絶対に会わないと。もう、ずいぶん待たせたわ」
暗闇の中を、ヘリコプターは急速に空へ登っていく。
「スタンリーですわ!」
ミランダが、鳴っている自分の携帯を差しだした。スタンリーは、ビバリーからの連絡で状況はわかっていた。しかしエルウィンを北の塔に送り、いまは、もう家だと言う。
「スタンリー、いまグリフレットは?」
「連絡つきません。塔の前にいると思います」
「ほかの人は?」
「お城には、グリフレットしかいないと思います。夕方に、すべて帰しました」
どのみち、わたしが行かないと魔法は解けない。急ぐしかなかった。
「塔は外から無理って、言ってたわよね」
「そうです。扉に鍵穴はありません」
「鍵を壊すことはできる?」
「やってみないとなんとも。鍵はかなり頑丈なやつです」
ああもう、誰もいないのが歯がゆい。操縦席から、ボブが声をあげた。
「城の前に降りたい。庭が傷んでいいか、聞いてくれねえか?」
たしかに、お城のヘリポートは敷地の外れだと言っていた。だが、スタンリーは困ったように答えた。
「庭は危険です。段差が多く、平らな場所は意外に少ないのです。それに庭木の枝は、下から見るより実際は大きく広がってます。ヘリコプターの羽根にかすれば大惨事ですよ!」
わたしは聞きながら、ボブに首をふって危険だとジェスチャーした。
「池の上はどうです?」
ボブに池の上は? と伝えた。親指を立て、オーケーと返してくる。電話のむこうで、さわいでる声が聞こえた。
「よせ、今は急いでるんだ」
そんな声が聞こえた。なにか、もめているようだ。
「おばさん、おばさん!」
意外な声におどろいた。
「ジェームス?」
「池はダメ! グリフレットさんが、釣りであけた穴を見たんだ。今年はあんまり厚く凍ってないって思った。スケートぐらいならいいけど、ヘリコプターなんて無理だよ!」
ジェームスの話をボブに伝えた。
「くそっ!」
ボブがなげく。
「とりあえず、わかったわ。ありがとうジェームス!」
「おばさん、おばさん、がんばって!」
ジェームスから携帯を取りあげたらしく、スタンリーに変わった。
「とにかく私も、すぐに行きます」
スタンリーとの電話を切って考えた。ヘリコプターを降ろす場所を探して、塔の扉を破って。間に合うだろうか。
わたしはモリーをはさんで、となりにすわっているミランダに言った。
「車じゃねえんだ」
操縦席からボブが言った。いくつものスイッチを入れていく。
「飛ばせそう?」
「ウチが、何代続く運転手だと思ってんだ。あんたが雇った馬の御者とは、ちがうぜ!」
「魔法使いは、わたしじゃない! それに、そのへんはハッキリ思いだせないの!」
「ジャニス、あれも憶えておりませんの?」
ミランダが小声で聞いてきた。
「ほら、おふたりは、ちぎりを結んだこともあるんでしょ?」
言いたいことはわかった。なんて言っていいかわからず、無言で、うなずいた。
「はあ、良かった!」
ミランダは、安堵のため息をついた。暗いからわからないけど、ぜったい、わたしの耳は真っ赤だ。
「なんの話だい?」
「ボブ、早く飛ばしなさい!」
ミランダのお叱りに、ボブは前をむいた。わたしは、抱きついているモリーを見つめ、抱きしめ返した。
「もうちょっと、がんばってね。急いでエルウィンに会わなきゃいけないの」
「明日じゃダメなの?」
「そうね、絶対に今日なの。今日しかないの」
ボブが静かに「行くぞ」と言い、最後のスイッチを押す。ヘリコプターのプロペラが回転しはじめた。ゆっくりと、機体が持ちあがる。
「絶対に会わないと。もう、ずいぶん待たせたわ」
暗闇の中を、ヘリコプターは急速に空へ登っていく。
「スタンリーですわ!」
ミランダが、鳴っている自分の携帯を差しだした。スタンリーは、ビバリーからの連絡で状況はわかっていた。しかしエルウィンを北の塔に送り、いまは、もう家だと言う。
「スタンリー、いまグリフレットは?」
「連絡つきません。塔の前にいると思います」
「ほかの人は?」
「お城には、グリフレットしかいないと思います。夕方に、すべて帰しました」
どのみち、わたしが行かないと魔法は解けない。急ぐしかなかった。
「塔は外から無理って、言ってたわよね」
「そうです。扉に鍵穴はありません」
「鍵を壊すことはできる?」
「やってみないとなんとも。鍵はかなり頑丈なやつです」
ああもう、誰もいないのが歯がゆい。操縦席から、ボブが声をあげた。
「城の前に降りたい。庭が傷んでいいか、聞いてくれねえか?」
たしかに、お城のヘリポートは敷地の外れだと言っていた。だが、スタンリーは困ったように答えた。
「庭は危険です。段差が多く、平らな場所は意外に少ないのです。それに庭木の枝は、下から見るより実際は大きく広がってます。ヘリコプターの羽根にかすれば大惨事ですよ!」
わたしは聞きながら、ボブに首をふって危険だとジェスチャーした。
「池の上はどうです?」
ボブに池の上は? と伝えた。親指を立て、オーケーと返してくる。電話のむこうで、さわいでる声が聞こえた。
「よせ、今は急いでるんだ」
そんな声が聞こえた。なにか、もめているようだ。
「おばさん、おばさん!」
意外な声におどろいた。
「ジェームス?」
「池はダメ! グリフレットさんが、釣りであけた穴を見たんだ。今年はあんまり厚く凍ってないって思った。スケートぐらいならいいけど、ヘリコプターなんて無理だよ!」
ジェームスの話をボブに伝えた。
「くそっ!」
ボブがなげく。
「とりあえず、わかったわ。ありがとうジェームス!」
「おばさん、おばさん、がんばって!」
ジェームスから携帯を取りあげたらしく、スタンリーに変わった。
「とにかく私も、すぐに行きます」
スタンリーとの電話を切って考えた。ヘリコプターを降ろす場所を探して、塔の扉を破って。間に合うだろうか。
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