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第六章

第42話 モリー画伯

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「ママー」 

 入り口から声が聞こえた。王の間の入り口に、執事に手を引かれたモリーが立っている。全ての使用人があつまる以上、執事にモリーを見てもらうしかなかったのだ。

 かけ寄ってくると思いきや、階段が面白そうなのか、エルウィンの元へ走っていった。わたしは執事に歩み寄る。

「ありがとう、グリフレット」

 執事は相変わらず涼しい顔でうなずいた。その姿をまじまじと見てしまう。今日、いろいろな秘密がわかったけど、その秘密をすべて知る男、そしてそれを統括する男。執事というのは、やっぱりすごい。

「それにしても、意外と職人というのは、お互いを知らないんですね」
「縄張り、でもありませんが、自分の仕事には干渉をきらいます。まあ、それでいいでしょう」

 わたしは、玉座をもう一度ふり返った。エルウィンの上にモリーがすわり、それをみんなが囲っている。

「モリーに手を焼きませんでした?」
「ええ、いい子でした。お絵書きが好きなようで。ペンを持たせると、ひとりでずっと書いておりました」

 わたしは血の気が引くのを感じた。

「まさか、目を離しませんでしたよね?」

 執事は言われている意味が、わからないようだった。

「リタ、お願い、すぐ来て!」

 わたしは掃除婦長をつれて寝室へかけもどった。モリー画伯が描いたさきは、テーブルだった。良かった! 床や壁じゃなくて。

 掃除婦長に見てもらい、心配は要らないと言われた。処理としてはスポンジでこすり、あとはヤスリをかけるらしい。

「ママー、お昼にしよー」

 ひとりで部屋にもどってきたようだ。わたしはモリーをにらんだ。

「ダメよ、モリー。このテーブルをきれいにするわよ」
「これは、わたくしどもでやっておきます。ジャニス様は、ご昼食を」

 そんな話をしていると、窓の外からにぎやかな声。見てみると、みんなが庭に出ていた。男性たちが長机を運んでいる。掃除婦長も窓に近づき、外を見た。

「ご昼食は、お庭のようですね」

 エルウィンも出てきて、わたしたちの窓を見上げた。おいでおいでと手招きする。掃除婦長がテーブルの端をつかんだ。

「このテーブルも、庭に運んでしまいしょう」
「これも?」
「はい。どうせ汚れるなら、これを」

 それもそうだと思い、一緒にテーブルを運ぶ。

 庭に置かれたテーブルに合わせ、モリーの落書きテーブルもくっつける。まわりには半分に切ったドラム缶が、あちこちに置かれていた。おそらく焚き火用だろう。

 テーブルクロスを持って、若きメイドが現れた。

「ジャニス、ドロシーが一緒に、ティーサンドを作らないかと言ってました」
「行くわ!」
「ママー」

 モリーが足にじゃれあってくる。

「午前中、遊べなくてごめんね」

 しゃがんでモリーのほほをなでた。

「でもママね、これから、最後の教えをあおぎに行かないと」
「ジャニス、それすごい言い方」

 若きメイドは笑った。

「モリー、温室を見たくないかい?」

 庭師長が手招きした。

「そうだな、僕も行こう。おいでモリー」

 エルウィンの元へモリーが走っていく。まったく! 甘えっぱなしなんだから。そう思って歩き出そうとしたが、ふと、エルウィンをふり返った。エルウィンが温室?

 その背中を少し眺めて、わたしは調理場へ走りだした。
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