42 / 53
第六章
第42話 モリー画伯
しおりを挟む
「ママー」
入り口から声が聞こえた。王の間の入り口に、執事に手を引かれたモリーが立っている。全ての使用人があつまる以上、執事にモリーを見てもらうしかなかったのだ。
かけ寄ってくると思いきや、階段が面白そうなのか、エルウィンの元へ走っていった。わたしは執事に歩み寄る。
「ありがとう、グリフレット」
執事は相変わらず涼しい顔でうなずいた。その姿をまじまじと見てしまう。今日、いろいろな秘密がわかったけど、その秘密をすべて知る男、そしてそれを統括する男。執事というのは、やっぱりすごい。
「それにしても、意外と職人というのは、お互いを知らないんですね」
「縄張り、でもありませんが、自分の仕事には干渉をきらいます。まあ、それでいいでしょう」
わたしは、玉座をもう一度ふり返った。エルウィンの上にモリーがすわり、それをみんなが囲っている。
「モリーに手を焼きませんでした?」
「ええ、いい子でした。お絵書きが好きなようで。ペンを持たせると、ひとりでずっと書いておりました」
わたしは血の気が引くのを感じた。
「まさか、目を離しませんでしたよね?」
執事は言われている意味が、わからないようだった。
「リタ、お願い、すぐ来て!」
わたしは掃除婦長をつれて寝室へかけもどった。モリー画伯が描いたさきは、テーブルだった。良かった! 床や壁じゃなくて。
掃除婦長に見てもらい、心配は要らないと言われた。処理としてはスポンジでこすり、あとはヤスリをかけるらしい。
「ママー、お昼にしよー」
ひとりで部屋にもどってきたようだ。わたしはモリーをにらんだ。
「ダメよ、モリー。このテーブルをきれいにするわよ」
「これは、わたくしどもでやっておきます。ジャニス様は、ご昼食を」
そんな話をしていると、窓の外からにぎやかな声。見てみると、みんなが庭に出ていた。男性たちが長机を運んでいる。掃除婦長も窓に近づき、外を見た。
「ご昼食は、お庭のようですね」
エルウィンも出てきて、わたしたちの窓を見上げた。おいでおいでと手招きする。掃除婦長がテーブルの端をつかんだ。
「このテーブルも、庭に運んでしまいしょう」
「これも?」
「はい。どうせ汚れるなら、これを」
それもそうだと思い、一緒にテーブルを運ぶ。
庭に置かれたテーブルに合わせ、モリーの落書きテーブルもくっつける。まわりには半分に切ったドラム缶が、あちこちに置かれていた。おそらく焚き火用だろう。
テーブルクロスを持って、若きメイドが現れた。
「ジャニス、ドロシーが一緒に、ティーサンドを作らないかと言ってました」
「行くわ!」
「ママー」
モリーが足にじゃれあってくる。
「午前中、遊べなくてごめんね」
しゃがんでモリーのほほをなでた。
「でもママね、これから、最後の教えをあおぎに行かないと」
「ジャニス、それすごい言い方」
若きメイドは笑った。
「モリー、温室を見たくないかい?」
庭師長が手招きした。
「そうだな、僕も行こう。おいでモリー」
エルウィンの元へモリーが走っていく。まったく! 甘えっぱなしなんだから。そう思って歩き出そうとしたが、ふと、エルウィンをふり返った。エルウィンが温室?
その背中を少し眺めて、わたしは調理場へ走りだした。
入り口から声が聞こえた。王の間の入り口に、執事に手を引かれたモリーが立っている。全ての使用人があつまる以上、執事にモリーを見てもらうしかなかったのだ。
かけ寄ってくると思いきや、階段が面白そうなのか、エルウィンの元へ走っていった。わたしは執事に歩み寄る。
「ありがとう、グリフレット」
執事は相変わらず涼しい顔でうなずいた。その姿をまじまじと見てしまう。今日、いろいろな秘密がわかったけど、その秘密をすべて知る男、そしてそれを統括する男。執事というのは、やっぱりすごい。
「それにしても、意外と職人というのは、お互いを知らないんですね」
「縄張り、でもありませんが、自分の仕事には干渉をきらいます。まあ、それでいいでしょう」
わたしは、玉座をもう一度ふり返った。エルウィンの上にモリーがすわり、それをみんなが囲っている。
「モリーに手を焼きませんでした?」
「ええ、いい子でした。お絵書きが好きなようで。ペンを持たせると、ひとりでずっと書いておりました」
わたしは血の気が引くのを感じた。
「まさか、目を離しませんでしたよね?」
執事は言われている意味が、わからないようだった。
「リタ、お願い、すぐ来て!」
わたしは掃除婦長をつれて寝室へかけもどった。モリー画伯が描いたさきは、テーブルだった。良かった! 床や壁じゃなくて。
掃除婦長に見てもらい、心配は要らないと言われた。処理としてはスポンジでこすり、あとはヤスリをかけるらしい。
「ママー、お昼にしよー」
ひとりで部屋にもどってきたようだ。わたしはモリーをにらんだ。
「ダメよ、モリー。このテーブルをきれいにするわよ」
「これは、わたくしどもでやっておきます。ジャニス様は、ご昼食を」
そんな話をしていると、窓の外からにぎやかな声。見てみると、みんなが庭に出ていた。男性たちが長机を運んでいる。掃除婦長も窓に近づき、外を見た。
「ご昼食は、お庭のようですね」
エルウィンも出てきて、わたしたちの窓を見上げた。おいでおいでと手招きする。掃除婦長がテーブルの端をつかんだ。
「このテーブルも、庭に運んでしまいしょう」
「これも?」
「はい。どうせ汚れるなら、これを」
それもそうだと思い、一緒にテーブルを運ぶ。
庭に置かれたテーブルに合わせ、モリーの落書きテーブルもくっつける。まわりには半分に切ったドラム缶が、あちこちに置かれていた。おそらく焚き火用だろう。
テーブルクロスを持って、若きメイドが現れた。
「ジャニス、ドロシーが一緒に、ティーサンドを作らないかと言ってました」
「行くわ!」
「ママー」
モリーが足にじゃれあってくる。
「午前中、遊べなくてごめんね」
しゃがんでモリーのほほをなでた。
「でもママね、これから、最後の教えをあおぎに行かないと」
「ジャニス、それすごい言い方」
若きメイドは笑った。
「モリー、温室を見たくないかい?」
庭師長が手招きした。
「そうだな、僕も行こう。おいでモリー」
エルウィンの元へモリーが走っていく。まったく! 甘えっぱなしなんだから。そう思って歩き出そうとしたが、ふと、エルウィンをふり返った。エルウィンが温室?
その背中を少し眺めて、わたしは調理場へ走りだした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
姫の歳月〜貴公子に見染められた異形の姫は永遠の契りで溺愛される
花野未季
恋愛
最愛の母が亡くなる際に、頭に鉢を被せられた “鉢かぶり姫” ーー以来、彼女は『異形』と忌み嫌われ、ある日とうとう生家を追い出されてしまう。
たどり着いた貴族の館で、下働きとして暮らし始めた彼女を見染めたのは、その家の四男坊である宰相君。ふたりは激しい恋に落ちるのだが……。
平安ファンタジーですが、時代設定はふんわりです(゚∀゚)
御伽草子『鉢かづき』が原作です(^^;
登場人物は元ネタより増やし、キャラも変えています。
『格調高く』を目指していましたが、どんどん格調低く(?)なっていきます。ゲスい人も場面も出てきます…(°▽°)
今回も山なしオチなし意味なしですが、お楽しみいただけたら幸いです(≧∀≦)
☆参考文献)『お伽草子』ちくま文庫/『古語辞典』講談社
☆表紙画像は、イラストAC様より“ くり坊 ” 先生の素敵なイラストをお借りしています♪
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。
しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。
だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる