38 / 53
第六章
第38話 エルウィン城ツアー
しおりを挟む
みんなの朝食が終わり、食堂は静かになった。
がらんとした食堂で、城主エルウィンを待つ。娘のモリーはフローラにまかせた。カーラとビバリーは、調理場で片付けをしている。
テーブルにすわっていると、ビバリーがコーヒーを持ってきてくれた。ビバリーは、いい子。地元で会ってたら、きっと友達になってただろう。
明日の朝は、もう出発。これが、ここでの最後の朝食。しみじみと食堂のあちこちを眺めながら、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。
壁に真鍮のフライパンが、ならんで飾ってあるのを見つけた。昔のフライパンだ。使ってはいないだろうけど、ぴかぴかに磨かれている。ここは、料理を愛する人があつまった調理場だ。わたしの勤めるダイナーでは、使っているフライパンでさえ、磨かれていない。
「早いな、もう皆は済んだのか」
そう言いながら、エルウィンが入ってきた。
「それに、いい匂いだ」
わたしの前に腰かける。
「おはようエルウィン。フレンチトースト食べる?」
「それは楽しみだな。ぜひ」
一度席を立って、エルウィンのフレンチトーストを作った。彼が食べ終えるまで、わたしはコーヒーを飲んで待つ。
「ビバリーの言葉は大げさではないな。きみは朝食の女神だ」
ナプキンで口元を拭きながら、エルウィンが言った。
「ありがとう。それでね、エルウィン。お願いがあるんだけど」
「ほう、なんだろう」
エルウィンは姿勢を正した。
「これから、少し付き合ってもらえる?」
「それは構わないが、どこかに行くのか?」
「エルウィン城のガイドツアー!」
「僕の城を? 誰が行くのだ?」
わたしはエルウィンを指した。
「ガイドツアーと言うからには、僕がガイドすればいいのだな?」
わたしは、首をふった。
「では、ガイドは誰が?」
わたしは自分を指した。
「きみが?」
エルウィンが腕を組んだ。
「まったく、意味がわからないな」
「行きましょ。あなたの時間は貴重だわ」
わたしは席を立った。エルウィンも立ちあがる。ガイドってどうやるんだろう? 片手をあげてみる。
「エルウィン城、ガイドツアーへようこそ!」
エルウィンが首をかしげた。
「では、どうぞこちらへ!」
先頭に立って調理場にむかう。メイドのふたりは片付けの手を止め、わたしたちの前にならんだ。
「こちらは、メイドのカーラとビバリー」
「ジャニス、ふたりの名前なんて、もちろん知っている」
「エルウィン! ガイドの途中よ」
エルウィンは、ふしぎそうに眉を寄せ、でも、うなずいて口を閉ざした。
「では、カーラ、案内を」
カーラは、わたしたちを連れて、調理場の勝手口から出た。出てすぐとなりの木戸を指す。
「こちらは、貯蔵庫になります」
入った貯蔵庫には棚があり、カゴに野菜がぎっしり入っていた。多いのは玉ねぎだ。大小いろいろな玉ねぎが保管されている。玉ねぎ嫌いのモリーがいたら絶叫するだろう。大型の冷蔵庫も三機あった。肉などを入れるらしい。
カーラはさらに奥の部屋へ案内した。書棚があり、びっしりと本がならんでいる。
「これまでのレシピです」
エルウィンが考え深げに、あごに手をやった。
「こんなにあるのか」
カーラは、書棚から一冊の本をだした。
「これが一番新しいレシピです」
ページをめくる。
「最新は、モリーとドロシーによる、七色のババロア」
エルウィンが、顔を近づけてレシピを見た。
「食べたいものがあれば、今後も、いつでもメイドに言ってください」
カーラはレシピを閉じ、エルウィンに一礼した。わたしは、またガイドのように片手をあげた。
「では、次に行きましょう!」
まだふしぎそうなエルウィンを連れ、わたしたちは貯蔵後をあとにした。
がらんとした食堂で、城主エルウィンを待つ。娘のモリーはフローラにまかせた。カーラとビバリーは、調理場で片付けをしている。
テーブルにすわっていると、ビバリーがコーヒーを持ってきてくれた。ビバリーは、いい子。地元で会ってたら、きっと友達になってただろう。
明日の朝は、もう出発。これが、ここでの最後の朝食。しみじみと食堂のあちこちを眺めながら、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。
壁に真鍮のフライパンが、ならんで飾ってあるのを見つけた。昔のフライパンだ。使ってはいないだろうけど、ぴかぴかに磨かれている。ここは、料理を愛する人があつまった調理場だ。わたしの勤めるダイナーでは、使っているフライパンでさえ、磨かれていない。
「早いな、もう皆は済んだのか」
そう言いながら、エルウィンが入ってきた。
「それに、いい匂いだ」
わたしの前に腰かける。
「おはようエルウィン。フレンチトースト食べる?」
「それは楽しみだな。ぜひ」
一度席を立って、エルウィンのフレンチトーストを作った。彼が食べ終えるまで、わたしはコーヒーを飲んで待つ。
「ビバリーの言葉は大げさではないな。きみは朝食の女神だ」
ナプキンで口元を拭きながら、エルウィンが言った。
「ありがとう。それでね、エルウィン。お願いがあるんだけど」
「ほう、なんだろう」
エルウィンは姿勢を正した。
「これから、少し付き合ってもらえる?」
「それは構わないが、どこかに行くのか?」
「エルウィン城のガイドツアー!」
「僕の城を? 誰が行くのだ?」
わたしはエルウィンを指した。
「ガイドツアーと言うからには、僕がガイドすればいいのだな?」
わたしは、首をふった。
「では、ガイドは誰が?」
わたしは自分を指した。
「きみが?」
エルウィンが腕を組んだ。
「まったく、意味がわからないな」
「行きましょ。あなたの時間は貴重だわ」
わたしは席を立った。エルウィンも立ちあがる。ガイドってどうやるんだろう? 片手をあげてみる。
「エルウィン城、ガイドツアーへようこそ!」
エルウィンが首をかしげた。
「では、どうぞこちらへ!」
先頭に立って調理場にむかう。メイドのふたりは片付けの手を止め、わたしたちの前にならんだ。
「こちらは、メイドのカーラとビバリー」
「ジャニス、ふたりの名前なんて、もちろん知っている」
「エルウィン! ガイドの途中よ」
エルウィンは、ふしぎそうに眉を寄せ、でも、うなずいて口を閉ざした。
「では、カーラ、案内を」
カーラは、わたしたちを連れて、調理場の勝手口から出た。出てすぐとなりの木戸を指す。
「こちらは、貯蔵庫になります」
入った貯蔵庫には棚があり、カゴに野菜がぎっしり入っていた。多いのは玉ねぎだ。大小いろいろな玉ねぎが保管されている。玉ねぎ嫌いのモリーがいたら絶叫するだろう。大型の冷蔵庫も三機あった。肉などを入れるらしい。
カーラはさらに奥の部屋へ案内した。書棚があり、びっしりと本がならんでいる。
「これまでのレシピです」
エルウィンが考え深げに、あごに手をやった。
「こんなにあるのか」
カーラは、書棚から一冊の本をだした。
「これが一番新しいレシピです」
ページをめくる。
「最新は、モリーとドロシーによる、七色のババロア」
エルウィンが、顔を近づけてレシピを見た。
「食べたいものがあれば、今後も、いつでもメイドに言ってください」
カーラはレシピを閉じ、エルウィンに一礼した。わたしは、またガイドのように片手をあげた。
「では、次に行きましょう!」
まだふしぎそうなエルウィンを連れ、わたしたちは貯蔵後をあとにした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
姫の歳月〜貴公子に見染められた異形の姫は永遠の契りで溺愛される
花野未季
恋愛
最愛の母が亡くなる際に、頭に鉢を被せられた “鉢かぶり姫” ーー以来、彼女は『異形』と忌み嫌われ、ある日とうとう生家を追い出されてしまう。
たどり着いた貴族の館で、下働きとして暮らし始めた彼女を見染めたのは、その家の四男坊である宰相君。ふたりは激しい恋に落ちるのだが……。
平安ファンタジーですが、時代設定はふんわりです(゚∀゚)
御伽草子『鉢かづき』が原作です(^^;
登場人物は元ネタより増やし、キャラも変えています。
『格調高く』を目指していましたが、どんどん格調低く(?)なっていきます。ゲスい人も場面も出てきます…(°▽°)
今回も山なしオチなし意味なしですが、お楽しみいただけたら幸いです(≧∀≦)
☆参考文献)『お伽草子』ちくま文庫/『古語辞典』講談社
☆表紙画像は、イラストAC様より“ くり坊 ” 先生の素敵なイラストをお借りしています♪
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる