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第四章

第31話 きよしこのよる

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「ドロシー! むりよ!」
「わたくしが十年若ければ、ゆずらぬものを」

 エルウィンが、わたしたちの前で一礼した。

「ドロシー、お話のところ失礼いたします。ジャニスを誘っても?」
「もちろんでございます」

 ドロシーをにらんだが、にっこり笑顔で返された。しぶしぶ、エルウィンの手を取る。

「あの、ダンスは踊ったことがなくて」
「簡単だ。僕が教えよう」

 エルウィンに手を取られ、中央へ進んだ。周囲がさっと場所を空ける。言われるがままに一礼をし、両手をあわせる。ふみだした第一歩で、彼の足をふんだ。

「ごめんなさい!」
「気にしない気にしない。大事なのは笑顔。そして楽しんで」

 彼の動きにあわせていると、次第にスムーズになってきた。大きなツリーのまわりを踊りながらまわっていく。ほかの組も同じ方向で、まわりはじめた。

 ツリーを中心にして、緩やかな人の渦ができていく。なんだか回転木馬に乗っているような気分で、楽しくなってきた。

「城主であろうと、花は独占すべきでは、ありません」

 そう冗談を言ってきたのは、庭師長のスタンリー。ダンスはパートナーをたびたび交代するらしい。わたしは庭師長と踊り、そのあとにボブとも踊った。

 やがて音楽が一段落すると、ダンスも休憩のようだった。モリーを探してみる。モリーは、エルウィンと踊っていたようだ。モリーを連れて、ワゴンの料理をわたり歩いてみる。

 オードブルも、ローストビーフも美味しい。なかでも、モリーとドロシーの合作「七色のババロア」は絶品だった。

 巨大でカラフルなババロアは注目の的。まわりを囲む人たちと、一口ずつ食べてみる。イチゴにオレンジ、ブルーベリー。白色は意外、バナナなのね。紫はなんだろう? と思ったら、サボテンの実だと、となりの婦人が教えてくれた。その場にいた人たちと、考えることは同じ。

「一度に食べたら、どんな味?」

 答えは、なんとも言えない味! 一度に口に入れるのは、二種類ほどが正解だと、まわりの人と笑いあった。

 もはや、主催者気取りのモリーは、あちこちのグループに入っていく。大勢のパーティーではあるが、ある意味、参加者はすべて身内のようなもの。それほどモリーを気にかける必要もなく、気ままに食事をし、誘われればダンスを踊る。

 少し、若いころの気分を思いだしていた。ダンスパーティーなんてないけど、友達となにも考えず、夜通し遊んだものだった。

 そして、何度目かの演奏だった。エルウィンと踊っていると、彼がわたしの肩をたたき、会場の隅を指した。ベンチにはモリーと、庭師長の息子ジェームスがすわっている。モリーはジェームスに寄りかかって、すっかり寝てしまっていた。

 わたしはかけ寄って、小声でジェームスに「ありがとう」と言った。少年は照れくさそうに笑い、スキップでかけていく。そのうしろ姿を見て、やや年上になるがモリーの相手にありだな、なんて勝手に考えた。

 みんなの邪魔をしないように、部屋にもどろう。モリーをそっと抱っこして、立ちあがる。

 いつの間にか、曲が変わっていた。静かな歌声も聞こえてくる。なんの歌だろう? 耳を澄ました。

 それは「きよしこの夜」だった。ひょっとして? と思い、ふり返る。みんなが、こっちをむいて口ずさんでいた。

 わたしはもう一度、小声で「ありがとう」と言って、ホールをあとにした。


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