ガラスの靴の行方 私が過ごした秘密の城のクリスマス10日間

代々木夜々一

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第四章

第24話 大きくなった招待状

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 メイド長のミランダは食堂にいた。

 調理場ではなく、テーブルで古そうな本を読んでいた。ほか三人のメイドは、せわしなく調理にはげんでいる。

「昔の晩餐会メニューを再現したいのですが、わからないことが多くて。昨晩に、先代のメイド長には聞いておいたのですが、やはり難しいです」

 晩餐会メニュー。ツリーだけでなく食べ物まで大ごとになっている。気になっていたことを聞いてみた。

「シェフは、いないのですか?」

 これほどのお城なら、シェフがいてもおかしくない。でも今日まで姿を見たことはなかった。

「それがですね、その先代のメイド長が追いだしたんです。あるじが見てないことをいいことに、まったく仕事をしない人だったそうで」

 そうか、エルウィンは眠っている。さぼろうとすれば、いくらでもさぼれるのか。でもシェフを追いだすとは、その先代メイド長、かなり気の強い人だ。

「なかなか厳しい人だったんですね」
「そりゃあもう! わたくしなど何度怒られたか」

 食堂に、お年寄りの女性が入ってきた。メイド長が、その女性を見ておどろく。

「ドロシー様!」

 杖はついていたが髪を結いあげ、上品なワンピースを着た老女だった。この人が先代!

「おおミランダ、心配でいてもたっても」

 先代のメイド長は、そう言って調理場に行こうとしたが、足を止めた。エルウィンに気づく。

「旦那様」

 おじぎをしようとしたのを、あわててエルウィンが手を取る。顔をあげた老女は、涙を流していた。

「お目にかかれることができるとは、この上ないよろこびです」

 エルウィンが、ふと思いついたように言った。

「イザベラ?」
「はい。イザベラは母でございます」
「そうか! イザベラは結婚したと聞いたが、あなたが娘だったか」
「おばあちゃん、泣いてるの?」

 モリーが近づいて、心配そうに声をかけた。

「おお、これは可愛らしいお姫様。泣いてはおりませんよ、嬉しいだけです」
「はい、どうぞ!」

 モリーは手にしていたカードを、ドロシーに差しだした。ドロシーは、カードをあけると、笑顔で、うなずいた。

「話に聞いた、お客様ですね。わたくしは、ミランダの手伝いをしに来ただけで」
「いや」

 エルウィンは腕を組み、なにかを考え込んだ。

「旦那様?」

 老女の声には答えず、部屋にいた人たちを、ひとりずつ見つめる。

「モリーは言った。みんなでクリスマス・パーティーだと」

 次に窓ぎわに行って、外の様子をうかがった。なんだろう、とっても、嫌な胸騒ぎがする。

「グリフレット」
「はい」

 急に、エルウィンの口から執事の名前が出てきて、びっくりした。そして「はい」と返事をした執事にも、びっくりした。いつの間にいたのだろう。

「パーティーの招待状を至急送ってくれ。これまで城に関わってきた人、これから関わる人、すべてだ」
「かしこまりました」

 執事は、少し、おどろいた顔を見せたが、一礼をして退出しようとする。わたしは、おどろくなんてもんじゃない。娘の一言は大きくなって、雪だるまどころか、雪崩だ。

 エルウィンが、執事を今一度、呼び止めた。

「間違えるなよ、すべて来賓としてだ。それに主催者は、このモリー・リベラだ」


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