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第四章
第21話 グリルチーズサンド
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コーヒーを淹れ、レンズ豆とトマトのスープを煮込む。
調理台の上に食パン、バターにチーズ、パセリと調味料をならべた。さすが、すべての材料の質がいい。ハムも使おうかと思ったが、チェダーとパルメザンの風味が強い。ここはチーズだけで勝負する。
「モリーが起きたら、お願いしていいですか?」
メイド長はうなずいた。
「それは、もちろんですが、作らないのですか?」
材料をならべるだけで突っ立っている、そんなわたしを不思議に思ったようだ。
「このレシピは、作りたてが命なんです」
そう言っていると、三人の男性が入ってきた。ジャンパーを着込んでいるので、外の仕事、庭師かもしれない。庭師たちは、わたしを見てとまどった。
「今日の朝はアメリカン・スタイルでもいい?」
わたしの言葉に、意味はわからなかったみたいだけど、うんうんと、うなずいた。よし! まずコーヒーとスープを注いでだす。
フライパンに火を入れ、これでもか! というほどバターをたっぷり入れた。バターが溶けるあいだにパンを切り、片面を焼きはじめる。
そのパンの上に細かく切ったチェダーと、パルメザンを乗せた。チーズは、え、そんなに? というほど乗せたほうが美味しい。
フタをして火を弱める。この火力なら、おそらく二分半。そのあいだにパセリを刻む。
フタをあけて、もう一枚、バターを塗ったパンではさみ、ひっくり返す。このとき、微妙な押し加減でパンを少しつぶす。さらに、さきほどのパセリをパンの上にふりかける。ブラックペッパーと塩も忘れない。
もう一度、フタをして三分。こんがりと焼けた、グリルチーズサンドができあがった。それを半分に切り、皿に乗せる。よし! チーズの溶け具合もいい。
庭師たちはチーズサンドを手にとり、めずらしそうに眺めた。このサンドイッチは、だれでも作れる簡単な料理だ。だからこそ、飛びぬけて美味しいと思わせるには、けっこう年季がいる。と、わたしは思っているが、どうだろうか?
庭師たちが、ざくりと噛みついた。「おほ!」と、ひとりが言った。熱いからチーズサンドは。そして、すぐ、ふた口目を大きくほおばった。よし。いい食べっぷり。
「わたくしの役目はモリーね」
メイド長は安心したようで、部屋を出ていった。入れ替わるように次に入ってきたのは、メイドたちだ。
カーラとフローラの姉妹は、すでによく知っている。もうひとりの若い子は、初日にアタッシュケースを持ってきた子だ。今日は、みんな、朝から早い。
カーラとフローラは、いろいろと話をしたのでわたしの経歴は知っている。今日の朝食はまかせて! と伝えると、うなずいて席についた。
「最後に、ブラックペッパーなんですね」
若いメイドは、ビバリーと言った。わたしの横で、チーズサンドの作り方を見ている。まだ十九歳で、引退した母のあとを継いだらしい。
「ええ。そうなの。スパイスは基本、熱を入れるほど風味が飛ぶの」
ビバリーが感心したように、うなずいた。
「リベラ婦人、お手が空きましたら、もう一度、聞いてもいいですか? メモを取りたいので」
「ジャニスでいいわ。あとで一緒に作ろう。そのほうが早く身につく」
「やった! 今年の年越しは、彼氏と一緒なんです。翌朝に作ってあげたくて」
「それは教える方の責任重大ね。あら? 大晦日って」
エルウィンが眠りにつくのが大晦日だと、執事は言っていた。ビバリーが顔をゆがめる。
「想像しただけで、その時の雰囲気に耐えられそうになくて」
たしかに、若い子には重すぎる場面だ。
「コーヒーを水筒に入れてくれ」
そう言われて顔をあげると、運転手のボブだった。わたしが頭突きをした鼻が、まだ赤い。目が合うと、すっと横をむいた。
「おはようボブ! この前はごめんね。チーズサンドもあるわよ」
こういう時は元気よく。ダイナーで、常連客と喧嘩した翌朝と同じだ。もっとも、銃をむけられたことはないけど。言われたボブは、びっくりして答えた。
「パンはいい。すぐに買いだしに出なきゃならない。それに、どっちかっていうと朝は、甘いのが食べたいんだ」
「あら残念。ナツメグ入りのアップルパイでも作ったのに」
「ほんとか?」
「ほんとって、どういう意味?」
ボブが、ごにょごにょと言うので、より大きな声で「なに?」と聞きかえした。
「おれの大好物だ」
「じゃあ、あとで作っておくわ」
まんざらでもないようで、ボブは水筒を受け取って出ていった。わたしは思わず笑った。男って意外に甘いものが好きだ。
調理台の上に食パン、バターにチーズ、パセリと調味料をならべた。さすが、すべての材料の質がいい。ハムも使おうかと思ったが、チェダーとパルメザンの風味が強い。ここはチーズだけで勝負する。
「モリーが起きたら、お願いしていいですか?」
メイド長はうなずいた。
「それは、もちろんですが、作らないのですか?」
材料をならべるだけで突っ立っている、そんなわたしを不思議に思ったようだ。
「このレシピは、作りたてが命なんです」
そう言っていると、三人の男性が入ってきた。ジャンパーを着込んでいるので、外の仕事、庭師かもしれない。庭師たちは、わたしを見てとまどった。
「今日の朝はアメリカン・スタイルでもいい?」
わたしの言葉に、意味はわからなかったみたいだけど、うんうんと、うなずいた。よし! まずコーヒーとスープを注いでだす。
フライパンに火を入れ、これでもか! というほどバターをたっぷり入れた。バターが溶けるあいだにパンを切り、片面を焼きはじめる。
そのパンの上に細かく切ったチェダーと、パルメザンを乗せた。チーズは、え、そんなに? というほど乗せたほうが美味しい。
フタをして火を弱める。この火力なら、おそらく二分半。そのあいだにパセリを刻む。
フタをあけて、もう一枚、バターを塗ったパンではさみ、ひっくり返す。このとき、微妙な押し加減でパンを少しつぶす。さらに、さきほどのパセリをパンの上にふりかける。ブラックペッパーと塩も忘れない。
もう一度、フタをして三分。こんがりと焼けた、グリルチーズサンドができあがった。それを半分に切り、皿に乗せる。よし! チーズの溶け具合もいい。
庭師たちはチーズサンドを手にとり、めずらしそうに眺めた。このサンドイッチは、だれでも作れる簡単な料理だ。だからこそ、飛びぬけて美味しいと思わせるには、けっこう年季がいる。と、わたしは思っているが、どうだろうか?
庭師たちが、ざくりと噛みついた。「おほ!」と、ひとりが言った。熱いからチーズサンドは。そして、すぐ、ふた口目を大きくほおばった。よし。いい食べっぷり。
「わたくしの役目はモリーね」
メイド長は安心したようで、部屋を出ていった。入れ替わるように次に入ってきたのは、メイドたちだ。
カーラとフローラの姉妹は、すでによく知っている。もうひとりの若い子は、初日にアタッシュケースを持ってきた子だ。今日は、みんな、朝から早い。
カーラとフローラは、いろいろと話をしたのでわたしの経歴は知っている。今日の朝食はまかせて! と伝えると、うなずいて席についた。
「最後に、ブラックペッパーなんですね」
若いメイドは、ビバリーと言った。わたしの横で、チーズサンドの作り方を見ている。まだ十九歳で、引退した母のあとを継いだらしい。
「ええ。そうなの。スパイスは基本、熱を入れるほど風味が飛ぶの」
ビバリーが感心したように、うなずいた。
「リベラ婦人、お手が空きましたら、もう一度、聞いてもいいですか? メモを取りたいので」
「ジャニスでいいわ。あとで一緒に作ろう。そのほうが早く身につく」
「やった! 今年の年越しは、彼氏と一緒なんです。翌朝に作ってあげたくて」
「それは教える方の責任重大ね。あら? 大晦日って」
エルウィンが眠りにつくのが大晦日だと、執事は言っていた。ビバリーが顔をゆがめる。
「想像しただけで、その時の雰囲気に耐えられそうになくて」
たしかに、若い子には重すぎる場面だ。
「コーヒーを水筒に入れてくれ」
そう言われて顔をあげると、運転手のボブだった。わたしが頭突きをした鼻が、まだ赤い。目が合うと、すっと横をむいた。
「おはようボブ! この前はごめんね。チーズサンドもあるわよ」
こういう時は元気よく。ダイナーで、常連客と喧嘩した翌朝と同じだ。もっとも、銃をむけられたことはないけど。言われたボブは、びっくりして答えた。
「パンはいい。すぐに買いだしに出なきゃならない。それに、どっちかっていうと朝は、甘いのが食べたいんだ」
「あら残念。ナツメグ入りのアップルパイでも作ったのに」
「ほんとか?」
「ほんとって、どういう意味?」
ボブが、ごにょごにょと言うので、より大きな声で「なに?」と聞きかえした。
「おれの大好物だ」
「じゃあ、あとで作っておくわ」
まんざらでもないようで、ボブは水筒を受け取って出ていった。わたしは思わず笑った。男って意外に甘いものが好きだ。
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