10 / 53
第二章
第10話 お城としか言えない
しおりを挟む
リムジンでしばらく走ると、長い直線に入った。
隔壁でまえは見えない。よこの窓から前方を見る。林の中をひたすら真っすぐに道が伸びているようだ。
林道の終点は鉄柵のゲートだった。自動でゲートがあく。これも、映画などで見るような風景だ。だいたいは、マフィアだけど。
車はくねくねした道を通り、深い山の中に入っていった。お金持ちが、こんなへんぴな場所に住んでいるのは意外だ。
ここまでに会った使用人は、執事にメイドに運転手と、すでに三人。まだ家にもいるとして、五、六人は超える。それだけの人数をかかえるって、かなりの資産家だ。先週TVで見た、プロゴルファーの邸宅を思いだした。たしか四つもベッドルームがあり、プールも広かった。あれより大きいのかもしれない。
「もう家につく」
エルウィンがそう言うと、車は大きく曲がった。高い石垣があらわれる。石垣は両側にずっとつづいていた。道に沿って車はすすみ、大きなアーチの下をくぐる。
「庭だわ」
思わず、わたしはつぶやいた。冬なので花は咲いていない。でも、きれいに手入れがされている。緑の四角い生け垣は、気持ちいいほど整っていた。通路の石畳には、かれた雑草などもない。小さな噴水からは、水がちょろちょろと出ていた。遠くに小川があり、そこにかかるレンガ造りの橋が、なんともかわいらしい。どこの国立公園だろう?
「わあ、お城だ!」
モリーが見ている反対側の窓を見て、息をのんだ。
お城だ。お城としか言えない。
正面の大きな四階建てに、ならんだ細長い窓、上には三角屋根。そのおくには、さらに高い建物も見える。
エンピツを逆さにしたような、先のとがった塔がいくつかあり、その中でも、ひときわ高い二つの塔があった。その一つには大きな時計がついている。
お城の壁は白く、まさに「白亜の城」だった。わたしは、まばたきするのも忘れ、口もひらきっぱなし。
「さっき、家って言ったわよね」
「ああ、すこし大きいが、僕の家だ」
彼になにか言ってやりたいけど、あまりのことに言葉がでない。
「ここから見えないが、むこうに池がある。あとでスケートをしよう」
近くの池! あの時、エルウィンは言った。正しいけど、それは敷地内。自宅の池だ!
車は、ゆっくりと、玄関前に止まった。わたしは、よろけるように車を降りて、お城を見あげた。長い階段があり、わたしの家の一〇倍ありそうな大きな大きな扉が待っている。こ、これは場ちがいすぎる!
モリーは、エルウィンのあとをついて、さっさと階段をあがっていく。わたしは足が止まっていた。あたまの中が真っ白で、階段をのぼる一歩が、ふみだせなかった。階段は高く、お城はもっと高い。
そして、お城を見あげたまま、目の前も真っ白になった。
隔壁でまえは見えない。よこの窓から前方を見る。林の中をひたすら真っすぐに道が伸びているようだ。
林道の終点は鉄柵のゲートだった。自動でゲートがあく。これも、映画などで見るような風景だ。だいたいは、マフィアだけど。
車はくねくねした道を通り、深い山の中に入っていった。お金持ちが、こんなへんぴな場所に住んでいるのは意外だ。
ここまでに会った使用人は、執事にメイドに運転手と、すでに三人。まだ家にもいるとして、五、六人は超える。それだけの人数をかかえるって、かなりの資産家だ。先週TVで見た、プロゴルファーの邸宅を思いだした。たしか四つもベッドルームがあり、プールも広かった。あれより大きいのかもしれない。
「もう家につく」
エルウィンがそう言うと、車は大きく曲がった。高い石垣があらわれる。石垣は両側にずっとつづいていた。道に沿って車はすすみ、大きなアーチの下をくぐる。
「庭だわ」
思わず、わたしはつぶやいた。冬なので花は咲いていない。でも、きれいに手入れがされている。緑の四角い生け垣は、気持ちいいほど整っていた。通路の石畳には、かれた雑草などもない。小さな噴水からは、水がちょろちょろと出ていた。遠くに小川があり、そこにかかるレンガ造りの橋が、なんともかわいらしい。どこの国立公園だろう?
「わあ、お城だ!」
モリーが見ている反対側の窓を見て、息をのんだ。
お城だ。お城としか言えない。
正面の大きな四階建てに、ならんだ細長い窓、上には三角屋根。そのおくには、さらに高い建物も見える。
エンピツを逆さにしたような、先のとがった塔がいくつかあり、その中でも、ひときわ高い二つの塔があった。その一つには大きな時計がついている。
お城の壁は白く、まさに「白亜の城」だった。わたしは、まばたきするのも忘れ、口もひらきっぱなし。
「さっき、家って言ったわよね」
「ああ、すこし大きいが、僕の家だ」
彼になにか言ってやりたいけど、あまりのことに言葉がでない。
「ここから見えないが、むこうに池がある。あとでスケートをしよう」
近くの池! あの時、エルウィンは言った。正しいけど、それは敷地内。自宅の池だ!
車は、ゆっくりと、玄関前に止まった。わたしは、よろけるように車を降りて、お城を見あげた。長い階段があり、わたしの家の一〇倍ありそうな大きな大きな扉が待っている。こ、これは場ちがいすぎる!
モリーは、エルウィンのあとをついて、さっさと階段をあがっていく。わたしは足が止まっていた。あたまの中が真っ白で、階段をのぼる一歩が、ふみだせなかった。階段は高く、お城はもっと高い。
そして、お城を見あげたまま、目の前も真っ白になった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる