パンの味

塩こんぶ

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終わりの始まり

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 同棲ってやっぱいいな。
好きな人と暮らせるって幸せ。
 靴下脱ぎっぱなしだったりポケットにティッシュを入れたままの彼のズボンを洗濯機で洗ってしまい、洗濯物が大変なことになる日には嫌気がさすけれどそんなの小さいこと。
「今日は夜ご飯何作ろうかなー。カズくんお肉好きだから今日もお肉かなー?」
 私はルンルンで冷蔵庫の中を見て今日の献立を立てていた。
 ガチャッ。
「え……?」
 玄関のドアが開いた音がした。
カズくん以外、この家のドアを開けられる人はいない。
ってことはカズくんが帰ってきたんだろう。
 しかしいつもより早い。
まあ、そんな日もあるか。
(カズくん、きっと私とたまには色々お話したくて早く帰ってきたんだね!)
「ただいま。」
「おかえり!カズくん!早いね今日は。」
「あ、うん……。」
 返事をするとカズくんはドスッとソファーに座った。
そしてスマホを取り出し操作し始めた。
「カズくん、今からご飯作るところなの。だから早く着替えてきちゃいなよ。それかお風呂入ってきてもいいよ?」
「……。」
「ねえ、聞いてる?」
 カズくんはスマホに夢中なのか話を聞いていないように見えた。
そして、はぁっとため息をつくと重たそうにお尻を上げ、ソファーの端へずれた。
由羽ユウ。話したいことがあるんだけど。」
 そう言うとソファーの空いたスペースへ座るよう、私に促した。
私は言われるがまま、そこへ座った。
 話したいことと言われると、心臓がバクバクしてしまう。
こういう場合、悪い予感、良い予感、どっちも浮かぶが私はさっきまでルンルンだったせいか良い予感がしていた。
 同棲し始めて3年目。
ついにこの時がきたんだろう。
(カズくんついに私にプロポーズを!?)
(どうしよー!なんて言うのかな?)
(早く帰ってきたのってやっぱ色々話したかったからだったんだねー!)
 頭の中で色々な私がキャーキャー言っている。
 思わずニヤついてしまう。
(勿体ぶらずに早く言ってよー!)
「由羽、別れてほしいんだ。」
「……へ?」
「いや、だから、別れてほしいんだけど。」
「別れる……?」
 この部屋だけ時が止まってる?ってくらい私は何も言えず何もできない。
息苦しい。
 私がカズくんから目を逸らすとカズくんは話を続けた。
「つまり、同棲も終わり。これから俺らは別々の道を行くってわけ。」
「カズくんそれ、プロポーズの言葉……?」
「何言ってんの?相変わらず由羽の頭の中はいつもお花畑だな。とにかくあと2週間で俺は出ていくから。この部屋も2週間で解約してきたから。だから由羽は新しい部屋探して。」
 ちょっと何言ってるのか分からないんですけど……。
予想してたことを裏切られるとこうも人間って思考回路が停止するんですね……。
「じゃあ、俺、風呂入ってくるから。」
「あ、うん……。行ってらっしゃい。」
 カズくんは立ち上がり、状況が整理できず一点を見つめている私の方を一切見ることなくリビングから出て行った。
そして風呂場からシャワーの水の音が聞こえた頃、やっと理解が追いついた。
すくっと立ち上がり私は叫んだ。
「色々な話ってのはこれのことかーーー!!!」
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