【完結】理不尽な婚約破棄に母親が激怒しました

7話

月が変わり、慰謝料が支払われる約束の日になった。
やはりバートラムからは慰謝料の支払いがなかった。

「分割なら支払えると思ったけど、やはり無理だったのね……。信じた私が馬鹿みたい」

こうしてまたバートラムに催促することになり、クリスタは本気で面倒だと感じてしまった。
もう慰謝料請求なんて撤回したほうが楽でいいとも考えてしまった。

バートラムの家に向かう途中も心の中で愚痴をこぼした。



バートラムの家に着き、彼女は衝撃の事実を知る。

「バートラム様が失踪したですって？！」
「はい」

対応した使用人からそう知らされ、クリスタは驚きのあまり言葉を失った。
慰謝料を支払う意思がないから失踪したのだろうと考えた。
自分の苦労は全部無駄だったと思うと全身から力が抜けるようだった。

もしこれが嘘なら容易に嘘だと判明するだろう。
本当に失踪しているからこうなったのだとクリスタは考えた。

それは問題の解決が相当に難しくなったことを意味する。



どうにか帰宅したクリスタは両親に報告したが、両親は怒りつつも仕方ないと諦めた。
これ以上両親に振り回されなかったことはクリスタにとって幸運だった。
慰謝料が惜しい気持ちがあったが、現状ならバートラムは慰謝料の支払いから逃げたことになり、クリスタの有責ではないことが証明される。
最低限達成すべき自分の無実を手にできたことで彼女はもういいやと思ってしまった。
それだけ精神を消耗したのだ。

精神的に消耗したクリスタは友人と会うことにした。



「大丈夫？　顔色が良くないわ。いろいろ大変だと噂では聞いたけど……」

友人のアデレードが心配そうに声をかけた。

「全然大丈夫じゃないわ。バートラム様が突然失踪するなんて信じられないわ」
「そうよね、それは辛いわね。無責任すぎるわ」
「約束したことを守らず、私の気持ちを考えもしない……。どうしてそんな酷いことができるのか理解できないわ」
「彼にはあなたの価値が分からなかったのよ。あなたの素晴らしさに気づけないなんて、その程度の男だったということよ。気に病む必要はないわ」
「ありがとう、アデレード」

アデレードの言葉にクリスタは救われるような気持ちを抱いた。

「大丈夫、時間が経てば少しずつ気持ちも楽になるはず。あなたには私がいるから」
「ありがとう。アデレードがいてくれて本当に良かったわ」
「どんな時でも支えるから。彼のことを忘れるために何か楽しいことをしましょう？」
「そうね、何か気分転換になるようなことをしたいわね」

クリスタはバートラムという婚約者を失ったが、それは良かったのかもしれない。
信用できない相手と別れられ、そして今、信用できる友人のアデレードがいる。
婚約者には恵まれなかったが友人には恵まれたのだ。

こうしてクリスタはバートラムに振り回され消耗した心を癒すことになった。

なお慰謝料は泣き寝入りすることにした。
バートラムが失踪したならどうにもならない。
彼の親も責任を取ろうともしなかったのだ。

クリスタはこれ以上面倒なことに巻き込まれたくはなかった。
彼女の両親も、今回は彼女の気持ちを尊重した。