3 / 8
3話
しおりを挟む
翌日、クリスタはバートラムの自宅を訪ねた。
約束をしていなかったが幸いにも彼は在宅していた。
約束がなかったとはいえクリスタも貴族の令嬢である。
対応した使用人はあまり失礼な態度を取ることもできず、彼女は応接室へと通された。
そして少し待ち、バートラムがやってきた。
クリスタはさっそく要求を伝える。
「バートラム様、婚約破棄されたことには納得できません。ですが信頼関係は破壊されました。理不尽な理由での婚約破棄に対し慰謝料を請求します」
「慰謝料? 何を言っているんだ、君は」
慰謝料を請求されると言われたバートラムは本気では取り合わなかった。
きっと謝罪の言葉を求めているか、はした金でもせびるのだろうと考えた。
そう考えている間にもクリスタは言葉を続ける。
「私の心にどれほどの傷を負わせたのか分かっていないの? バートラム様の一方的な決断で私の人生が狂ったのよ。私は傷ついたの! それなのに慰謝料も支払わないというの?」
「君は本気で言っているのか? そんな無茶な要求、恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいのはバートラム様のほうでしょ? あなたの冷たさと無責任さが私をここまで追い込んだのよ。私の気持ちを踏みにじった代償を払うべきよ」
クリスタが必死に語ろうがバートラムは冷静だった。
とはいえ内心怒りがないわけではない。
だがお互いに感情的になってしまえばまとまる話もまとまらなくなってしまう。
「やれやれ、また感情的になっているようだな。それでは貴族の妻とするには問題がある。まだ理解できていないのか? 理解できていないなら婚約破棄したのは正解だったということだ」
「勝手に決めつけないで。そんな理由で私を捨てたのよ? 私の気持ちを考えてくれなかったのだから当然の要求よ。どうして慰謝料を支払おうとしないの?」
「君が何を言おうと俺はそれを受け入れられない。君が感情的になっているだけだ。もう少し落ち着いたらどうだ?」
「感情的になっているのはバートラム様も同じよ。自分の立場ばかり気にして私のことを全く考えていない。それに意固地になっているわ」
クリスタが口を開くたびにバートラムの不快感は増していく。
「……こうやって言葉でお互いを傷つけ合うのは良くないことだ。愛がないのも当然だな」
「愛? どうしてバートラム様が愛を口にするの? 私のこと、全然大切にしてくれなかったじゃない。私がどれだけ尽くしても報われなかったわ。私の愛は虚しかったわ……」
「……君の立場や認識はそうだったのか。ならば俺はこれ以上何も言うことがない」
「そう。何も言えないのなら私の要求を真剣に受け止めるべきよ」
お互いの主張は平行線だった。
言いたいことを言って慰謝料を支払わせようとするクリスタ。
彼女の言い分を認めず慰謝料の支払いから逃れようとするバートラム。
このままでは話し合いが無駄に罵り合うだけで終わってしまう。
「ともかく、俺は慰謝料を支払う気はない」
彼は固い意志で告げた。
だからといってクリスタは退くことができない。
半端な結果では母親に何を言われるかわからなかったからだ。
約束をしていなかったが幸いにも彼は在宅していた。
約束がなかったとはいえクリスタも貴族の令嬢である。
対応した使用人はあまり失礼な態度を取ることもできず、彼女は応接室へと通された。
そして少し待ち、バートラムがやってきた。
クリスタはさっそく要求を伝える。
「バートラム様、婚約破棄されたことには納得できません。ですが信頼関係は破壊されました。理不尽な理由での婚約破棄に対し慰謝料を請求します」
「慰謝料? 何を言っているんだ、君は」
慰謝料を請求されると言われたバートラムは本気では取り合わなかった。
きっと謝罪の言葉を求めているか、はした金でもせびるのだろうと考えた。
そう考えている間にもクリスタは言葉を続ける。
「私の心にどれほどの傷を負わせたのか分かっていないの? バートラム様の一方的な決断で私の人生が狂ったのよ。私は傷ついたの! それなのに慰謝料も支払わないというの?」
「君は本気で言っているのか? そんな無茶な要求、恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいのはバートラム様のほうでしょ? あなたの冷たさと無責任さが私をここまで追い込んだのよ。私の気持ちを踏みにじった代償を払うべきよ」
クリスタが必死に語ろうがバートラムは冷静だった。
とはいえ内心怒りがないわけではない。
だがお互いに感情的になってしまえばまとまる話もまとまらなくなってしまう。
「やれやれ、また感情的になっているようだな。それでは貴族の妻とするには問題がある。まだ理解できていないのか? 理解できていないなら婚約破棄したのは正解だったということだ」
「勝手に決めつけないで。そんな理由で私を捨てたのよ? 私の気持ちを考えてくれなかったのだから当然の要求よ。どうして慰謝料を支払おうとしないの?」
「君が何を言おうと俺はそれを受け入れられない。君が感情的になっているだけだ。もう少し落ち着いたらどうだ?」
「感情的になっているのはバートラム様も同じよ。自分の立場ばかり気にして私のことを全く考えていない。それに意固地になっているわ」
クリスタが口を開くたびにバートラムの不快感は増していく。
「……こうやって言葉でお互いを傷つけ合うのは良くないことだ。愛がないのも当然だな」
「愛? どうしてバートラム様が愛を口にするの? 私のこと、全然大切にしてくれなかったじゃない。私がどれだけ尽くしても報われなかったわ。私の愛は虚しかったわ……」
「……君の立場や認識はそうだったのか。ならば俺はこれ以上何も言うことがない」
「そう。何も言えないのなら私の要求を真剣に受け止めるべきよ」
お互いの主張は平行線だった。
言いたいことを言って慰謝料を支払わせようとするクリスタ。
彼女の言い分を認めず慰謝料の支払いから逃れようとするバートラム。
このままでは話し合いが無駄に罵り合うだけで終わってしまう。
「ともかく、俺は慰謝料を支払う気はない」
彼は固い意志で告げた。
だからといってクリスタは退くことができない。
半端な結果では母親に何を言われるかわからなかったからだ。
81
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説

見えるものしか見ないから
mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。
第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

【完結】恨んではいませんけど、助ける義理もありませんので
白草まる
恋愛
ユーディトはヒュベルトゥスに負い目があるため、最低限の扱いを受けようとも文句が言えない。
婚約しているのに満たされない関係であり、幸せな未来が待っているとは思えない関係。
我慢を続けたユーディトだが、ある日、ヒュベルトゥスが他の女性と親密そうな場面に出くわしてしまい、しかもその場でヒュベルトゥスから婚約破棄されてしまう。
詳しい事情を知らない人たちにとってはユーディトの親に非がある婚約破棄のため、悪者扱いされるのはユーディトのほうだった。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

私の療養中に、婚約者と幼馴染が駆け落ちしました──。
Nao*
恋愛
素適な婚約者と近く結婚する私を病魔が襲った。
彼の為にも早く元気になろうと療養する私だったが、一通の手紙を残し彼と私の幼馴染が揃って姿を消してしまう。
どうやら私、彼と幼馴染に裏切られて居たようです──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。最終回の一部、改正してあります。)

おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。
ましゅぺちーの
恋愛
公爵家の令嬢であるリリスは家族と婚約者に愛されて幸せの中にいた。
そんな時、リリスの父の弟夫婦が不慮の事故で亡くなり、その娘を我が家で引き取ることになった。
娘の名前はシルビア。天使のように可愛らしく愛嬌のある彼女はすぐに一家に馴染んでいった。
それに対してリリスは次第に家で孤立していき、シルビアに嫌がらせをしているとの噂までたち始めた。
婚約者もシルビアに奪われ、父からは勘当を言い渡される。
リリスは平民として第二の人生を歩み始める。
全8話。完結まで執筆済みです。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

ここへ何をしに来たの?
柊
恋愛
フェルマ王立学園での卒業記念パーティ。
「クリストフ・グランジュ様!」
凛とした声が響き渡り……。
※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しています。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる