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7話
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マリエルから話があると連絡を受けたダスティンは好都合だと思った。
何しろ婚約破棄を父親に認められたようなものだ。
そこに彼女のほうから連絡があったのだから、ちょうどいい機会だと考えた。
マリエルと会う予定の日になりダスティンは彼女を迎え入れた。
彼の目には彼女が何らかの決意を胸に秘めているように感じられた。
「ダスティン様、単刀直入に言います。私との婚約を解消してください」
それはダスティンが望んでいた言葉だった。
反対する理由がないが、ここで喜んでしまうと本音を悟られると、変に考えたダスティンは神妙な表情をする。
「……そうか、ならば仕方ない。婚約解消を受け入れよう」
「ダスティン様はエレナのことが一番大切なのですよね? 私との婚約は解消されました。彼女と結婚するのですか?」
「すぐに結婚は難しいだろう。だがエレナは俺に必要な存在なんだ。彼女と共に生きることが俺の幸せなんだ。いつか結婚したいと考えている」
「そうですか……。やはり私との縁はなかったのですね」
「そうなるな」
改めて言われると感傷的な気分になる。
ダスティンは何も言えなくなった。
今になってマリエルとやり直すことはない。
かといって婚約関係になり良好な関係だった過去もある。
だがそれもエレナとの幸せのためには捨てなければならないものだ。
そう思えばエレナが愛おしく思えてくる。
ダスティンはマリエルとの会話を通じてエレナへの想いに改めて気付かされた。
そのような気分をぶち壊したのはエレナの乱入だった。
彼女は勝ち誇ったように笑みを浮かべていた。
そしてダスティンの隣へ立った。
「これからはわたしがダスティンを支えるわ。だからあなたはわたしに任せて消えればいいのよ」
「そうね、お互いに顔を会わせないほうが幸せよね。私は帰るわ。二人の幸せを願っているわ」
エレナの言葉を受けてマリエルは何の未練も感じさせずに席を立った。
そのまま無言で振り返りもせず、彼女は部屋から出ていった。
その姿をエレナは得意気に見ていた。
マリエルがいなくなり、エレナはダスティンに語り出す。
「これでわたしたちの新しい生活が始まるのね。もうマリエルに邪魔はさせない。いいえ、邪魔なんてできるはずがないわ。ところでマリエルは追放されるの?」
「追放は難しいだろうな。できるとしても俺が当主を継いでからだ。それでも難しいだろうけどな」
「……それなら仕方ないわね。本当は追放してあげたいところだけど、素直に身を引いたから許してあげるわ。これでわたしが妻になれるのよね?」
「すぐには難しい。これも俺が当主になれば誰も反対はできない。それまで待ってくれ」
「もう、仕方ないわね。あまり待たせると気が変わるわよ?」
「変わらせないよ」
そう言ったダスティンはエレナを抱き寄せキスした。
「……もう」
怒ったような演技をしたエレナも満更ではなかった。
今は最大の敵だったマリエルが排除されたばかりだ。
この結果にエレナも満足しており、些細な不満は無視できた。
何しろ今度は自分がダスティンの妻になる番なのだ。
平民からの、まさかの貴族の正妻という立場に喜ばないはずがない。
だが感情を素直に出すとダスティンに何を思われるか分からず、普段通り振る舞うことを意識したエレナだった。
何しろ婚約破棄を父親に認められたようなものだ。
そこに彼女のほうから連絡があったのだから、ちょうどいい機会だと考えた。
マリエルと会う予定の日になりダスティンは彼女を迎え入れた。
彼の目には彼女が何らかの決意を胸に秘めているように感じられた。
「ダスティン様、単刀直入に言います。私との婚約を解消してください」
それはダスティンが望んでいた言葉だった。
反対する理由がないが、ここで喜んでしまうと本音を悟られると、変に考えたダスティンは神妙な表情をする。
「……そうか、ならば仕方ない。婚約解消を受け入れよう」
「ダスティン様はエレナのことが一番大切なのですよね? 私との婚約は解消されました。彼女と結婚するのですか?」
「すぐに結婚は難しいだろう。だがエレナは俺に必要な存在なんだ。彼女と共に生きることが俺の幸せなんだ。いつか結婚したいと考えている」
「そうですか……。やはり私との縁はなかったのですね」
「そうなるな」
改めて言われると感傷的な気分になる。
ダスティンは何も言えなくなった。
今になってマリエルとやり直すことはない。
かといって婚約関係になり良好な関係だった過去もある。
だがそれもエレナとの幸せのためには捨てなければならないものだ。
そう思えばエレナが愛おしく思えてくる。
ダスティンはマリエルとの会話を通じてエレナへの想いに改めて気付かされた。
そのような気分をぶち壊したのはエレナの乱入だった。
彼女は勝ち誇ったように笑みを浮かべていた。
そしてダスティンの隣へ立った。
「これからはわたしがダスティンを支えるわ。だからあなたはわたしに任せて消えればいいのよ」
「そうね、お互いに顔を会わせないほうが幸せよね。私は帰るわ。二人の幸せを願っているわ」
エレナの言葉を受けてマリエルは何の未練も感じさせずに席を立った。
そのまま無言で振り返りもせず、彼女は部屋から出ていった。
その姿をエレナは得意気に見ていた。
マリエルがいなくなり、エレナはダスティンに語り出す。
「これでわたしたちの新しい生活が始まるのね。もうマリエルに邪魔はさせない。いいえ、邪魔なんてできるはずがないわ。ところでマリエルは追放されるの?」
「追放は難しいだろうな。できるとしても俺が当主を継いでからだ。それでも難しいだろうけどな」
「……それなら仕方ないわね。本当は追放してあげたいところだけど、素直に身を引いたから許してあげるわ。これでわたしが妻になれるのよね?」
「すぐには難しい。これも俺が当主になれば誰も反対はできない。それまで待ってくれ」
「もう、仕方ないわね。あまり待たせると気が変わるわよ?」
「変わらせないよ」
そう言ったダスティンはエレナを抱き寄せキスした。
「……もう」
怒ったような演技をしたエレナも満更ではなかった。
今は最大の敵だったマリエルが排除されたばかりだ。
この結果にエレナも満足しており、些細な不満は無視できた。
何しろ今度は自分がダスティンの妻になる番なのだ。
平民からの、まさかの貴族の正妻という立場に喜ばないはずがない。
だが感情を素直に出すとダスティンに何を思われるか分からず、普段通り振る舞うことを意識したエレナだった。
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