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5話
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ある日、ダスティンはエレナと自室で秘密の話し合いをしていた。
「ダスティン、わたしたちの未来を考えると今のままでは良くないと思うの」
「そうだな……。どうしたいのか希望はあるか?」
エレナが愛人という立場で満足していないのだろうとダスティンは予想した。
以前の彼女であれば愛人という立場で満足していたはずなのだが、人の気持ちは変わるものだと考えていた。
エレナは深呼吸をし、言葉を続けた。
「わたしたちが本当に幸せになるためにはマリエルが邪魔なの。いっそのこと追放できない?」
まさか追放を望むとはダスティンにとって予想外の要望だった。
マリエルは他家の令嬢なのだからダスティンの一存で追放なんてできるはずがない。
追放するにも理由が必要であり、マリエルの両親を納得させられるような理由はない。
ダスティンが親に頼み込んで追放するのも無理だ。
他家の令嬢を追放するのは正当な理由があっても難しいことだ。
「待ってくれ、いくら何でも追放は無理だろう」
「でもわたしたちの関係のためには必要なことよ。彼女がいる限り、わたしたちの愛は世間的に認められないもの。影に隠れているようで辛いわ」
ダスティンは苦しそうな表情を浮かべた。
「エレナ、マリエルはあれでも俺の婚約者なんだ。簡単に婚約関係は終わらせられないんだ……。ましてや追放なんて無理だ」
「でも、あなたはわたしを愛しているのでしょう? わたしたちの幸せには彼女は邪魔よ」
「だが……」
「マリエルは貴族としての立場を持っているけれど、わたしたちの愛が本物ならわたしを選ぶべきでしょう? お飾りの婚約者なんて可哀そうよ」
ダスティンは黙って考え込んだ。
彼はエレナの気持ちを尊重したいと思いつつ、マリエルとの婚約が両家にとってどれほど重要であるかも理解していた。
彼は貴族の家柄に生まれ、嫡男として爵位を継ぐ立場にある。
自分の立場と愛の間で彼は揺れていた。
「マリエルを追放することはリスクが高い。そもそも実現できるとも思えないし、追放を提案しただけで俺の立場が危うくなるかもしれない」
「あなたはわたしを愛しているのよね? わたしたちの未来を考えて。マリエルはあなたから自由を奪う存在なのよ?」
「俺はエレナを愛している。だが……それでも簡単には彼女と別れることはできない」
「彼女と別れることでわたしたちの愛がもっと自由になれるのよ。わたしだって堂々とダスティンの隣にいたいの。愛人なんて見下される立場は辛いの……」
エレナは目に涙を浮かべた。
こうなるとダスティンは強く出られない。
ダスティンは考えた。
マリエルと愛のないまま結婚したらどうなるか。
もしエレナと結婚したらどうなるのか。
都合の良い展開を考えた結果、ダスティンは妥協案を出すことにした。
「俺の一存では追放は無理だ。父上に相談してみよう。許可が得られればどうにかなるだろう。もし許可が得られない場合は……諦めてくれ」
「……分かったわ」
エレナはダスティンが苦しんでいることを理解し、妥協することにした。
「わたしたちの未来のためにもがんばってね」
「ああ」
ダスティンは腑に落ちなかったが決定は決定だ。
「ありがとう、ダスティン。わたしたちの愛が、きっと良い結果をもたらしてくれるわ」
ダスティンはエレナに上手く利用されているような感覚に陥ったが、彼女の愛を信じなくてどうするのか、と気にしないことにした。
「ダスティン、わたしたちの未来を考えると今のままでは良くないと思うの」
「そうだな……。どうしたいのか希望はあるか?」
エレナが愛人という立場で満足していないのだろうとダスティンは予想した。
以前の彼女であれば愛人という立場で満足していたはずなのだが、人の気持ちは変わるものだと考えていた。
エレナは深呼吸をし、言葉を続けた。
「わたしたちが本当に幸せになるためにはマリエルが邪魔なの。いっそのこと追放できない?」
まさか追放を望むとはダスティンにとって予想外の要望だった。
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「待ってくれ、いくら何でも追放は無理だろう」
「でもわたしたちの関係のためには必要なことよ。彼女がいる限り、わたしたちの愛は世間的に認められないもの。影に隠れているようで辛いわ」
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「でも、あなたはわたしを愛しているのでしょう? わたしたちの幸せには彼女は邪魔よ」
「だが……」
「マリエルは貴族としての立場を持っているけれど、わたしたちの愛が本物ならわたしを選ぶべきでしょう? お飾りの婚約者なんて可哀そうよ」
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ダスティンは腑に落ちなかったが決定は決定だ。
「ありがとう、ダスティン。わたしたちの愛が、きっと良い結果をもたらしてくれるわ」
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