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2話
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マリエルはダスティンの言葉が信じられなかった。
そのようなことを言い出すような人だとは思っていなかった。
突然そのようなことを言われても信じられるはずがないが、間違いなく彼はそう言った。
ならばどうしてそう言い出したのか理由を知らなくてはならない。
「私たちは婚約していますよね? どうして愛人なんかが必要なのですか?」
「俺はマリエルが大切なんだ。だからまだ手は出せない。そこで愛人が役に立つ」
「私が大切だから愛人を作るのですか?」
「そうだとも」
ダスティンは自分が何ら悪いことをしていないという表情で告げた。
そこには発言を撤回する気はないという揺るぎない決意があった。
「それって……浮気ですか?」
「いや、そんなことはない。ただの愛人が浮気相手のはずないだろう?」
「それ……浮気では……?」
ダスティンの言葉をマリエルは受け入れることができなかった。
「安心しろ、マリエル。俺のマリエルへの気持ちは変わらない。マリエルの婚約者という立場だってそのままだ。問題ないだろう?」
「問題です。愛人は私を裏切る行為です。私たちの未来のために愛人は不要です!」
「まあ落ち着け。貴族なんだから第二夫人や愛人だって珍しくないだろう? 今からそんなことで腹を立てていたら上手くいく生活も上手くいかなくなるだろう?」
「愛人の時点で私を大切にしていないことにはなりませんか?」
「ならないだろう? そうか、嫉妬か。嫉妬するマリエルも可愛らしいものだな」
ダスティンは笑顔を浮かべたが、マリエルにとっては気持ちの悪いものにしか見えなかった。
もう彼はかつての婚約者と同じ人間だとは思えなかった。
愛していたはずなのに、今はもう嫌悪感しか抱けなかった。
「ダスティン様は私を愛し大切にしてくれていると思っていました。私の気持ちを無視して、どうして愛人なんて作れるというのですか?」
「愛とは時に複雑なものだ。君には理解できないのかもしれないが、俺には愛人が必要なんだ。あまり我慢するのも良くないしな」
「……私の存在が邪魔なのですね」
「そうは言っていない。ただ愛人の存在を認めればいいだけだ」
「私にとっては受け入れがたい事実です」
お互いの主張は平行線だ。
それからも無駄にやり取りが続き、ついに決定的な言葉が出てくる。
「もういい! マリエル! お前との婚約は破棄する!」
主張を受け入れようとしないマリエルに、ダスティンもついに我慢の限界を迎え告げてしまった。
「……私が間違っていました。どうか許してください」
この婚約を喜んだ両親の顔を思い出すとマリエルは自分の考えを貫くことができなかった。
婚約は両家の問題でもあるので、関係が破綻すれば親に迷惑をかけるだけでなく、将来的に悪影響を及ぼすことも考えられた。
そのため、彼女は自分の考えは優先できなかった。
「ふんっ、やっと理解したか。ならば婚約破棄は撤回する。だが覚えておけ。また俺に逆らうようなことをしたら、今度こそ確実に婚約破棄してやるからな」
「はい」
ダスティンは不快感を隠そうともしなかったが、マリエルが認めたことで満足できる結果になった。
彼女への愛情が失われようとも愛人がいれば問題ない。
マリエルに対し優位な立場が確定したことも満足できる理由だ。
そこには愛も思いやりも存在していなかった。
こうして二人の冷めた関係が始まるのだった。
そのようなことを言い出すような人だとは思っていなかった。
突然そのようなことを言われても信じられるはずがないが、間違いなく彼はそう言った。
ならばどうしてそう言い出したのか理由を知らなくてはならない。
「私たちは婚約していますよね? どうして愛人なんかが必要なのですか?」
「俺はマリエルが大切なんだ。だからまだ手は出せない。そこで愛人が役に立つ」
「私が大切だから愛人を作るのですか?」
「そうだとも」
ダスティンは自分が何ら悪いことをしていないという表情で告げた。
そこには発言を撤回する気はないという揺るぎない決意があった。
「それって……浮気ですか?」
「いや、そんなことはない。ただの愛人が浮気相手のはずないだろう?」
「それ……浮気では……?」
ダスティンの言葉をマリエルは受け入れることができなかった。
「安心しろ、マリエル。俺のマリエルへの気持ちは変わらない。マリエルの婚約者という立場だってそのままだ。問題ないだろう?」
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「まあ落ち着け。貴族なんだから第二夫人や愛人だって珍しくないだろう? 今からそんなことで腹を立てていたら上手くいく生活も上手くいかなくなるだろう?」
「愛人の時点で私を大切にしていないことにはなりませんか?」
「ならないだろう? そうか、嫉妬か。嫉妬するマリエルも可愛らしいものだな」
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もう彼はかつての婚約者と同じ人間だとは思えなかった。
愛していたはずなのに、今はもう嫌悪感しか抱けなかった。
「ダスティン様は私を愛し大切にしてくれていると思っていました。私の気持ちを無視して、どうして愛人なんて作れるというのですか?」
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「……私の存在が邪魔なのですね」
「そうは言っていない。ただ愛人の存在を認めればいいだけだ」
「私にとっては受け入れがたい事実です」
お互いの主張は平行線だ。
それからも無駄にやり取りが続き、ついに決定的な言葉が出てくる。
「もういい! マリエル! お前との婚約は破棄する!」
主張を受け入れようとしないマリエルに、ダスティンもついに我慢の限界を迎え告げてしまった。
「……私が間違っていました。どうか許してください」
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婚約は両家の問題でもあるので、関係が破綻すれば親に迷惑をかけるだけでなく、将来的に悪影響を及ぼすことも考えられた。
そのため、彼女は自分の考えは優先できなかった。
「ふんっ、やっと理解したか。ならば婚約破棄は撤回する。だが覚えておけ。また俺に逆らうようなことをしたら、今度こそ確実に婚約破棄してやるからな」
「はい」
ダスティンは不快感を隠そうともしなかったが、マリエルが認めたことで満足できる結果になった。
彼女への愛情が失われようとも愛人がいれば問題ない。
マリエルに対し優位な立場が確定したことも満足できる理由だ。
そこには愛も思いやりも存在していなかった。
こうして二人の冷めた関係が始まるのだった。
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