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4話
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グロリアはモーリスの噂を耳にするたびに胸が締め付けられる思いだった。
思い出したくもない記憶が呼び起こされてしまうのだ。
どういった内容であれ、彼の名前を耳にすると心が削られていくように思えた。
「もう彼のことを考えたくないのに……」
グロリアは外出も控え、自室にこもるようになっていた。
窓の外を眺めれば美しい庭が見える。
だがその景色も心を癒すことはできなかった。
視線を上げれば空の広さを感じることができた。
どこまでも遠い空の向こうに行きたいとグロリアは思った。
そして閃いた。
「そうだ、旅行に行こう」
彼の噂話が届かないような遠い場所まで行けば不快な噂を耳にすることもないと考えてのことだ。
それに新しい場所で新しい経験をすることで、彼のことを忘れる手助けになるかもしれない。
グロリアは名案だと自画自賛した。
彼女は両親に旅行に行くことを告げることにした。
夕食の席で両親に言った。
「お父様、お母様、私、少し旅行に行きたいと思っています」
「ほう? それもいいかもしれないな」
「いいわね、素晴らしいわ。どこに行くつもりなの?」
「海沿いの街に行こうと思っています」
「それなら、ぜひ行くべきだ。お前にとって良い時間を過ごせるだろう」
「きっと気分も変わるわよ。行ってらっしゃい。人生にはそういった時間も必要よ」
「ありがとうございます」
理解のある両親によってグロリアは旅行することが決まった。
こうなるとグロリアの心も軽くなる。
自分に必要なものは環境を変え気分を変えることだったのだと彼女は自覚した。
旅先は観光地としても有名な街だったので交通の便も良かった。
乗合馬車を利用し、道中問題もなく、グロリアは無事に目的地の街に到着した。
活気に満ちた街の雰囲気は彼女の心を一瞬で明るくした。
見慣れない商品を扱う店や賑やかな露店市が、まるで新しい世界に誘っているようだった。
「ここは本当に素晴らしい街だわ! 来て正解よ!」
彼女は周囲を見渡しながら嬉しさを噛みしめた。
新しい発見や経験により心が弾む。
食事もまた彼女にとっての大きな楽しみだった。
彼女は今まで食べたことのない料理に挑戦し舌鼓を打った。
「この味、まるで海の恵みそのものだわ!」
彼女は笑顔で料理を堪能した。
そして、突然エリナのことを思い出した。
「あっ、エリナに旅行に行くことを伝え忘れていたわ!」
彼女は少し後悔の念に駆られた。
エリナはあれだけ自分のことを心配してくれたのだから、せめて一言伝えておけば良かったと思った。
「でもお土産を買っていけばいいわよね」
グロリアは心を落ち着けるように自分に言い聞かせた。
もう終わってしまったことを悔やんでも仕方ない。
今できることを考えれば、それはお土産を買うことだった。
何よりも自分が元気を取り戻せば彼女も喜んでくれるだろうという思いがあった。
こうしてグロリアは順調に心を癒した。
モーリスのことを思い出すこともなく、気分を変えることに成功した。
グロリアはこの街が好きになっていた。
「まだまだ滞在しても大丈夫よね」
幸いなことに資金は十分に用意してある。
彼女はこの楽しい日々をまだまだ続けることに決めたのだった。
思い出したくもない記憶が呼び起こされてしまうのだ。
どういった内容であれ、彼の名前を耳にすると心が削られていくように思えた。
「もう彼のことを考えたくないのに……」
グロリアは外出も控え、自室にこもるようになっていた。
窓の外を眺めれば美しい庭が見える。
だがその景色も心を癒すことはできなかった。
視線を上げれば空の広さを感じることができた。
どこまでも遠い空の向こうに行きたいとグロリアは思った。
そして閃いた。
「そうだ、旅行に行こう」
彼の噂話が届かないような遠い場所まで行けば不快な噂を耳にすることもないと考えてのことだ。
それに新しい場所で新しい経験をすることで、彼のことを忘れる手助けになるかもしれない。
グロリアは名案だと自画自賛した。
彼女は両親に旅行に行くことを告げることにした。
夕食の席で両親に言った。
「お父様、お母様、私、少し旅行に行きたいと思っています」
「ほう? それもいいかもしれないな」
「いいわね、素晴らしいわ。どこに行くつもりなの?」
「海沿いの街に行こうと思っています」
「それなら、ぜひ行くべきだ。お前にとって良い時間を過ごせるだろう」
「きっと気分も変わるわよ。行ってらっしゃい。人生にはそういった時間も必要よ」
「ありがとうございます」
理解のある両親によってグロリアは旅行することが決まった。
こうなるとグロリアの心も軽くなる。
自分に必要なものは環境を変え気分を変えることだったのだと彼女は自覚した。
旅先は観光地としても有名な街だったので交通の便も良かった。
乗合馬車を利用し、道中問題もなく、グロリアは無事に目的地の街に到着した。
活気に満ちた街の雰囲気は彼女の心を一瞬で明るくした。
見慣れない商品を扱う店や賑やかな露店市が、まるで新しい世界に誘っているようだった。
「ここは本当に素晴らしい街だわ! 来て正解よ!」
彼女は周囲を見渡しながら嬉しさを噛みしめた。
新しい発見や経験により心が弾む。
食事もまた彼女にとっての大きな楽しみだった。
彼女は今まで食べたことのない料理に挑戦し舌鼓を打った。
「この味、まるで海の恵みそのものだわ!」
彼女は笑顔で料理を堪能した。
そして、突然エリナのことを思い出した。
「あっ、エリナに旅行に行くことを伝え忘れていたわ!」
彼女は少し後悔の念に駆られた。
エリナはあれだけ自分のことを心配してくれたのだから、せめて一言伝えておけば良かったと思った。
「でもお土産を買っていけばいいわよね」
グロリアは心を落ち着けるように自分に言い聞かせた。
もう終わってしまったことを悔やんでも仕方ない。
今できることを考えれば、それはお土産を買うことだった。
何よりも自分が元気を取り戻せば彼女も喜んでくれるだろうという思いがあった。
こうしてグロリアは順調に心を癒した。
モーリスのことを思い出すこともなく、気分を変えることに成功した。
グロリアはこの街が好きになっていた。
「まだまだ滞在しても大丈夫よね」
幸いなことに資金は十分に用意してある。
彼女はこの楽しい日々をまだまだ続けることに決めたのだった。
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