6 / 8
6話
しおりを挟む
ウィラード王子は唐突に言った。
「実は君を一目見たときから気に入っていたんだ」
突然の告白にキャロラインは心臓が止まりそうな思いをした。
まさかこのような理由があったなんて、聞かされてもまだ信じられなかった。
「……そうだったのですね。初めてお会いしたのは先ほどですよね?」
「ああ、そうだとも」
「それで私を助けてくださったのですか?」
「それもあるかもしれないな。だが理不尽な仕打ちを見て見ぬ振りはできない。きっと他の人が同じような状況になっていても助けただろう」
ウィラード王子は飾らずに本心を語った。
それはキャロラインにも伝わり、王子が本気なのだと思った。
「私は男爵家の娘です。殿下の気持ちは嬉しいですが、釣り合いが取れません」
「問題があるとすれば釣り合いが取れないことくらいではないのか?」
「……そうかもしれません」
キャロラインにとって懸念していたことはウィラード王子にとっては取るに足らないことだった。
キャロラインは外堀を埋められるように思えた。
ウィラード王子の提案はまたしても唐突だった。
「そういえばメイドの仕事をしていたなら踊れなかっただろう? この場で音楽もないが踊らないか?」
「……はい」
夢にまで見た王宮の舞踏会でのダンスとは少し違うが、これもまた特別な経験だった。
キャロラインの手を取ったウィラードは踊りはじめ、キャロラインをリードした。
キャロラインは上手く踊れたとは思わなかった。
だが踊りながら見つめ合う二人の間には特別な感情が確かに芽生えていた。
このままずっと踊っていられたら幸せだと彼女は考えた。
踊り終わり、手を放すのを惜しむ気持ちを抱いたのは二人とも同じだった。
ウィラードはキャロラインを見つめ言う。
「君と出会えて本当に良かった」
「私もです、ウィラード殿下」
そう言われれば嬉しくないはずがない。
しかし、キャロラインはふと我に返った。
「私はここでメイドとして働いている身です。そろそろ仕事に戻らないと……」
申し訳なさそうに言ったキャロラインの気持ちをウィラード王子は尊重することにした。
焦らなくとも時間はあるのだ。
ここで束縛するような素振りを見せれば彼女は従うだろうが、それは後に悪い影響を及ぼすと考えた。
「君のその責任感、素晴らしいと思う。ますます君が好きになった」
「ありがとうございます、ウィラード殿下。では失礼いたします」
キャロラインはお辞儀をして部屋から出て行った。
ウィラードはその背中を見送りながら彼女への思いをさらに強くした。
「この出会いは運命かもしれない。彼女を虐げた者は許さない……」
ウィラード王子は敵に容赦するつもりはなかった。
キャロラインを虐げていたなら継母だろうが義妹だろうが敵だった。
「まずは事実を明らかにしないとな」
ウィラード王子は部下からの報告が待ち遠しく思った。
「実は君を一目見たときから気に入っていたんだ」
突然の告白にキャロラインは心臓が止まりそうな思いをした。
まさかこのような理由があったなんて、聞かされてもまだ信じられなかった。
「……そうだったのですね。初めてお会いしたのは先ほどですよね?」
「ああ、そうだとも」
「それで私を助けてくださったのですか?」
「それもあるかもしれないな。だが理不尽な仕打ちを見て見ぬ振りはできない。きっと他の人が同じような状況になっていても助けただろう」
ウィラード王子は飾らずに本心を語った。
それはキャロラインにも伝わり、王子が本気なのだと思った。
「私は男爵家の娘です。殿下の気持ちは嬉しいですが、釣り合いが取れません」
「問題があるとすれば釣り合いが取れないことくらいではないのか?」
「……そうかもしれません」
キャロラインにとって懸念していたことはウィラード王子にとっては取るに足らないことだった。
キャロラインは外堀を埋められるように思えた。
ウィラード王子の提案はまたしても唐突だった。
「そういえばメイドの仕事をしていたなら踊れなかっただろう? この場で音楽もないが踊らないか?」
「……はい」
夢にまで見た王宮の舞踏会でのダンスとは少し違うが、これもまた特別な経験だった。
キャロラインの手を取ったウィラードは踊りはじめ、キャロラインをリードした。
キャロラインは上手く踊れたとは思わなかった。
だが踊りながら見つめ合う二人の間には特別な感情が確かに芽生えていた。
このままずっと踊っていられたら幸せだと彼女は考えた。
踊り終わり、手を放すのを惜しむ気持ちを抱いたのは二人とも同じだった。
ウィラードはキャロラインを見つめ言う。
「君と出会えて本当に良かった」
「私もです、ウィラード殿下」
そう言われれば嬉しくないはずがない。
しかし、キャロラインはふと我に返った。
「私はここでメイドとして働いている身です。そろそろ仕事に戻らないと……」
申し訳なさそうに言ったキャロラインの気持ちをウィラード王子は尊重することにした。
焦らなくとも時間はあるのだ。
ここで束縛するような素振りを見せれば彼女は従うだろうが、それは後に悪い影響を及ぼすと考えた。
「君のその責任感、素晴らしいと思う。ますます君が好きになった」
「ありがとうございます、ウィラード殿下。では失礼いたします」
キャロラインはお辞儀をして部屋から出て行った。
ウィラードはその背中を見送りながら彼女への思いをさらに強くした。
「この出会いは運命かもしれない。彼女を虐げた者は許さない……」
ウィラード王子は敵に容赦するつもりはなかった。
キャロラインを虐げていたなら継母だろうが義妹だろうが敵だった。
「まずは事実を明らかにしないとな」
ウィラード王子は部下からの報告が待ち遠しく思った。
199
お気に入りに追加
203
あなたにおすすめの小説

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。

契約婚なのだから契約を守るべきでしたわ、旦那様。
よもぎ
恋愛
白い結婚を三年間。その他いくつかの決まり事。アンネリーナはその条件を呑み、三年を過ごした。そうして結婚が終わるその日になって三年振りに会った戸籍上の夫に離縁を切り出されたアンネリーナは言う。追加の慰謝料を頂きます――

私の婚約者と姉が密会中に消えました…裏切者は、このまま居なくなってくれて構いません。
coco
恋愛
私の婚約者と姉は、私を裏切り今日も密会して居る。
でも、ついにその罰を受ける日がやって来たようです…。

甘やかされすぎた妹には興味ないそうです
もるだ
恋愛
義理の妹スザンネは甘やかされて育ったせいで自分の思い通りにするためなら手段を選ばない。スザンネの婚約者を招いた食事会で、アーリアが大事にしている形見のネックレスをつけているスザンネを見つけた。我慢ならなくて問い詰めるもスザンネは知らない振りをするだけ。だが、婚約者は何か知っているようで──。

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……

ブスなお前とは口を利かないと婚約者が言うので、彼の愛する妹の秘密は教えませんでした。
coco
恋愛
ブスなお前とは口を利かないと、婚約者に宣言された私。
分かりました、あなたの言う通りにします。
なので、あなたの愛する妹の秘密は一切教えませんよ─。

妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。
雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」
妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。
今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。
私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる