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ミシェルとしては苦渋の選択として、スティーヴンの弟のアーヴィンと婚約することになった。
それは政略結婚のためであり、スティーヴンが裏切ろうとも両家の結びつきを弱めるわけにはいかなかったためである。
アーヴィンも同じような立場であり、望まない婚約であろうが受け入れなくてはならなかった。
婚約が決まっているとはいえ、正式に決まる前に二人は秘かに本音で話し合った。
「このような婚約は僕にとっても不本意なものです。ですが両家の関係のためには婚約し結婚するしかありません」
「それは私だって同じです」
「ですが、僕は僕なりにあなたを愛すると誓います。どうか信じてくれませんか?」
アーヴィンはミシェルを見つめた。
ミシェルはアーヴィンの真摯な瞳を見つめ返した。
スティーヴンとは違う、真っすぐな気持ちが伝わってくるようだった。
ミシェルはスティーヴンのことを思い返したが、彼はこのような真摯な視線を向けることはなかった。
アーヴィンはスティーヴンとは違う。
だが信じて裏切られるのは避けたかった。
ミシェルの心の奥底ではアーヴィンへの想いが芽生えつつあったが、それを素直に認めることはできなかった。
だから建前としての言葉を選ぶ。
「……信じます。だから私を裏切らないでくださいね?」
「もちろんです」
ミシェルは両家の関係のためにそう言った。
そう言わなければ関係を良好にすることも難しくなってしまうためだ。
自分の不安を振り払おうとしても将来どうなるか分からないのだから不安を振り払うことはできない。
だからといって決断を先延ばしにすることもできない。
そのような理由からの言葉だったが、アーヴィンは安心したようだった。
彼もまたこの婚約の重要性を理解しており、失敗は許されなかったからだ。
こうしてミシェルはアーヴィンと婚約し、結婚の日取りまで決まってしまった。
両家の結びつきを強めるための政略結婚なのだから、今度こそ失敗するわけにはいかない。
だが意外にも二人の関係は悪くなかった。
アーヴィンはミシェルの機嫌を損ねるわけにはいかず、浮気をしないのは当然であり、彼女への気遣いは過剰ともいえるものだった。
何しろスティーヴンの件で立場が弱くなっており、アーヴィンまで問題を起こせば後がないのだ。
自分の立場や役割を理解していたアーヴィンはミシェルのために生きることが決まっていた。
それが愛と呼べるものなのかは怪しいが、政略結婚による婚姻関係としては悪くないものだった。
悪くないことが幸せと考えるべきか、それともより幸せを目指すべきか。
より幸せを目指した結果がスティーヴンなのだから、ミシェルは悪くない現状を受け入れた。
「だって貴族だもの。政略結婚を受け入れないとね。イルマみたいにスティーヴンから情熱的に愛を歌われても困るだけよね」
面倒な人間に付きまとわれないだけ恵まれているのかもしれないとミシェルは思った。
アーヴィンは良き夫として振る舞い、ミシェルも良き妻として振る舞った。
それは愛というよりも情というものなのかもしれないが、悪くない関係だと二人は思っていた。
それは政略結婚のためであり、スティーヴンが裏切ろうとも両家の結びつきを弱めるわけにはいかなかったためである。
アーヴィンも同じような立場であり、望まない婚約であろうが受け入れなくてはならなかった。
婚約が決まっているとはいえ、正式に決まる前に二人は秘かに本音で話し合った。
「このような婚約は僕にとっても不本意なものです。ですが両家の関係のためには婚約し結婚するしかありません」
「それは私だって同じです」
「ですが、僕は僕なりにあなたを愛すると誓います。どうか信じてくれませんか?」
アーヴィンはミシェルを見つめた。
ミシェルはアーヴィンの真摯な瞳を見つめ返した。
スティーヴンとは違う、真っすぐな気持ちが伝わってくるようだった。
ミシェルはスティーヴンのことを思い返したが、彼はこのような真摯な視線を向けることはなかった。
アーヴィンはスティーヴンとは違う。
だが信じて裏切られるのは避けたかった。
ミシェルの心の奥底ではアーヴィンへの想いが芽生えつつあったが、それを素直に認めることはできなかった。
だから建前としての言葉を選ぶ。
「……信じます。だから私を裏切らないでくださいね?」
「もちろんです」
ミシェルは両家の関係のためにそう言った。
そう言わなければ関係を良好にすることも難しくなってしまうためだ。
自分の不安を振り払おうとしても将来どうなるか分からないのだから不安を振り払うことはできない。
だからといって決断を先延ばしにすることもできない。
そのような理由からの言葉だったが、アーヴィンは安心したようだった。
彼もまたこの婚約の重要性を理解しており、失敗は許されなかったからだ。
こうしてミシェルはアーヴィンと婚約し、結婚の日取りまで決まってしまった。
両家の結びつきを強めるための政略結婚なのだから、今度こそ失敗するわけにはいかない。
だが意外にも二人の関係は悪くなかった。
アーヴィンはミシェルの機嫌を損ねるわけにはいかず、浮気をしないのは当然であり、彼女への気遣いは過剰ともいえるものだった。
何しろスティーヴンの件で立場が弱くなっており、アーヴィンまで問題を起こせば後がないのだ。
自分の立場や役割を理解していたアーヴィンはミシェルのために生きることが決まっていた。
それが愛と呼べるものなのかは怪しいが、政略結婚による婚姻関係としては悪くないものだった。
悪くないことが幸せと考えるべきか、それともより幸せを目指すべきか。
より幸せを目指した結果がスティーヴンなのだから、ミシェルは悪くない現状を受け入れた。
「だって貴族だもの。政略結婚を受け入れないとね。イルマみたいにスティーヴンから情熱的に愛を歌われても困るだけよね」
面倒な人間に付きまとわれないだけ恵まれているのかもしれないとミシェルは思った。
アーヴィンは良き夫として振る舞い、ミシェルも良き妻として振る舞った。
それは愛というよりも情というものなのかもしれないが、悪くない関係だと二人は思っていた。
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