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7話

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イルマは自分の部屋に一人座っていた。
周りには婚約の話が白紙になったことを示す書類が散乱していた。

「上手くいかないわね……」

彼女は深く溜息をついた。

イルマが婚約できないのはミシェルからスティーヴンを奪ったことも理由の一つだったが、もっと大きな理由はスティーヴンが愛を歌ったからである。
ある意味スティーヴンはストーカーであり、ミシェルと恋仲になったらスティーヴンが何をするか分からない恐ろしさがあった。
そのようなリスクを負ってまで恋仲になるほどイルマは魅力的ではなかった。

それにミシェルやスティーヴンの家を敵に回す恐れもあった。

余程の考えなしでなければイルマと恋仲になるはずがなかった。
ましてや婚約や結婚に踏み切れるはずがなかった。

「どうしてまともな男はわたしに近寄ってこないの?」

寄ってくる男性はイルマが軽い女だと決めつけ遊び相手にしようと考えるものたちばかりだった。
彼女はそれに気付かず弄ばれたことも何度かあった。
そのようなことが続けばさすがに彼女も学習した。

「スティーヴンもスティーヴンよ。未練ったらしくて迷惑だわ。わたしの名前まで広まっているし。本当、迷惑よ」

イルマはため息をついた。
幸せが逃げていくのは溜め息のせいだけではなく、何よりも彼女自身の行動の結果だった。



婚約者ができず結婚もしていないのはミシェルも同じだった。
だが彼女は意図的に相手を作ろうとしなかった。

「スティーヴンは自分らしい生き方を見つけたのね」

それが彼の幸せなのだろうとミシェルは考えた。
そこに元夫婦だったからという気持ちは全く存在していない。

「イルマへの愛を歌にしてしまったのだから本気よね。いろいろな意味ですごいわ……」

ミシェルはスティーヴンの噂もイルマの噂も耳にしている。
イルマが相手に恵まれないのはスティーヴンの歌が大きな理由だと考えていた。

「せっかく私から奪ったのにスティーヴンが家から追放されて残念だったわね」

別に誰に聞かせるわけではないがミシェルは言葉にした。
それが彼女の言いたかったことだ。
いつまでも胸の内に秘めていては自分が前に進めないと思ってのことだ。

「そろそろ新しい相手を見つけるよう言われているけど……あの話を進めるしかないの?」

ミシェルに持ち掛けられた話とはスティーヴンの弟、アーヴィンとの結婚を前提とした婚約だ。
政略結婚であったのにスティーヴンとは失敗したが、アーヴィンと結婚すれば関係は維持されるという両家の考えによるものだ。
ミシェルはある意味被害者かもしれないが、自由に相手を選べる立場でないことも理解している。

「それが私の運命なのね……」

愛に生きた人たちの現状を考えると、政略結婚を受け入れたほうがいいだろうと彼女は考えた。
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