【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

3話

ミシェルはスティーヴンを睨みつけた。

「私を裏切るなんて……許せないわ！　絶対に裏切らないと信じていたのに！」

スティーヴンは深く頭を垂れた。
それだけミシェルから信頼されていたとは思っていなかった。
その信頼を裏切ったことで少し胸が痛んだ。

だがもう結論を出してしまった。

「世の中に絶対はない。裏切ってしまったことは申し訳ないと思う。だがこれも俺の幸せのために必要なことだったんだ」
「私の幸せはどうでも良かったってこと？　それがスティーヴン様の気持ちだったのね。信じていたのに……」

ミシェルの悲しそうな表情を見たスティーヴンは、ますます胸が締め付けられるような気がした。

「どうして……こうなったの？　私は何も悪くないのに……」

ミシェルの目から大粒の涙が流れ落ちる。

「イルマの魅力にも勝てなかった……。ミシェルが悪いのではない。イルマが魅力的すぎたんだ」

スティーヴンは正直な言葉はミシェルを傷つけた。
褒められたイルマは満足そうな表情を浮かべた。

「あなたが夫を満足させられないのは当然よ。わたしのほうが遥かに魅力的でしょう？　彼がわたしを選んだことが何よりも証拠よ」

イルマは優雅に微笑みながら、ミシェルを見下すように言った。

「……離婚しましょう、スティーヴン様」
「……そうだな」

こうなってしまえばやり直すことは不可能だ。
離婚は当然だった。

「ついにあの女から解放されたのね。スティーヴンはわたしを選んでくれたのね……」

イルマは満足げな笑みを浮かべた。
一方でスティーヴンの表情は晴れやかではなかった。

それに気付いたイルマは不満そうな表情になる。

「いつまでもあの女のことを気にしているの？　 あなたはもうわたしのものなの。わたしと新しい関係を始めるのよ」

イルマはスティーヴンに強く抱きついた。

「そうだな、もう後戻りはできない。ミシェル、離婚の手続きは後日行おう。今は……お互い一緒にいるべきではない」
「……そうね」

ミシェルが同意したことでスティーヴンは部屋から出ていこうとした。
イルマも一緒だったが、彼女はミシェルを見下すように一瞥した。

二人が部屋から出ていき、ミシェルは一人残された。
そして今までのことを振り返る。



二人は貴族の家に生まれ育ち、幼い頃から親しく接していた。
両家は代々の盟友であり、ミシェルとスティーヴンの結婚は家同士の絆を深めるものだと考えられていた。
二人は幼い頃から互いを慈しみ合い、成長するにつれて恋に落ちていった。
ミシェルはスティーヴンに絶対的な信頼を置いており、彼が自分を裏切るなどとは夢にも思っていなかった。
両家の関係を考えても裏切るはずがないと考えるのは当然のことだった。

二人の結婚式は華やかに執り行われ、両家の人々が祝福した。
ミシェルは自分が夫の唯一の愛する人であり、二人の絆は永遠に変わることがないと信じていた。

しかし、イルマの登場によってそうした信頼は一瞬にして砕け散ってしまった。
ミシェルは自分の夫が他の女性に心を奪われていたという事実に絶望せざるを得なかった。

だがもしスティーヴンがイルマときっぱりと別れるなら話は別だった。
彼がイルマを選びミシェルと離婚することが決まった今、もう関係の修復は不可能だ。



「これもスティーヴン様が選んだことなのよね……。どうなるか分からないけど、二人が幸せになれるとは思えないわ……」

離婚を両親に報告し、スティーヴンの親にも報告しなければならない。
その結果がどうなるか少し考えれば予想できる。

ミシェルにはスティーヴンとイルマが幸せになれる未来を想像できなかった。