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スティーヴンはイルマの部屋にいる。
スティーヴンは既婚者だがイルマは彼の妻ではない。
人知れず愛し合う関係だが、イルマはその関係に満足していなかった。

「わたしたちの愛はいつまで秘密にしておかないといけないの? スティーヴンはミシェルと離婚するって約束したでしょ?」
「ああ、その通りだ。しかし、ミシェルとの離婚には時間がかかる。ここでばれてもいい事なんてないだろう? 申し訳ないがもう少し待ってくれないか?」
「待つのが辛いの……。あなたがミシェルといるのは耐えられない。わたしのこと、大切に考えているなら早く別れてよ」
「俺だって早く離婚したいと考えている。俺もミシェルも簡単に離婚できる立場ではないんだ」
「分かっているわよ。でもあなたがわたしのものになるまで待つのはもう限界よ。早くミシェルと別れて」
「できるだけ早く離婚すると約束する。だからもう少し待ってくれ」
「仕方ないわね……」

イルマは不満で不機嫌な表情のままだった。
それすらも可愛いと思えてしまったスティーヴンは彼女に夢中だった。



このような秘密の関係とはいえ、頻繁に怪しい行動をすれば浮気を勘付かれないはずがない。
スティーヴンの妻であるミシェルが彼の行動を怪しみ、人を雇って調査させたのだ。
その結果を知れば浮気は明らかだ。

「スティーヴン様にも困ったわ。許せないけど簡単には離婚できないのよね……」

ミシェルとスティーヴンは政略結婚だった。
浮気されようとも簡単に離婚できない関係だ。
もし離婚するなら両家の関係が最悪になる可能性も考えられる。
そうならないよう、家族や関係者は離婚しないよう必死に説得するだろう。

「愛を優先するなんてスティーヴン様も案外考えなしだったのね。幻滅したわ」

それでも離婚できない現状に、ミシェルはため息をついた。

「このことは親に相談したほうがいいのかしら? 秘密裏に処理したほうがいいのかしら?」

下手に相談すれば大事になり兼ねない。
そうなれば政略結婚も失敗に終わる可能性がある。

ミシェルは自分さえ我慢すれば両家の関係は問題ないと考えたが、それは受け入れがたい選択だった。

「どうして浮気された私が我慢しないといけないのよ……」

彼女は夫の浮気に腹を立てた。
謝ろうが許したくないという気持ちがますます強くなる。

「もうだめね、私たちの関係は」

ミシェルはスティーヴンを見限ろうとした。
愛されなくとも問題なく夫婦を続けられればいいと考えた。
それが両家にとって最悪ではない結果になるのだから。

だが心の奥底ではまたスティーヴンを信じたい気持ちも残っている。

「今頃スティーヴン様はお楽しみなのかしらね」

ミシェルはため息ばかり出てしまう。
信じたいという気持ちがあるから裏切りの事実が彼女に重く圧し掛かってくる。

どうしてこうなってしまったのかと思い返し、またため息が出てしまった。
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