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7話

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ルパートはヴァレリーに大切な話があると伝えていた。
彼女は彼を自宅に招くことを提案し、受け入れられた。

ルパートにしてみれば敵地に乗り込むようなものだが、自分に非がないと信じているから強気だった。
婚約破棄もきっと上手くいくと信じて疑わなかった。

二人が揃い、話し合いが始まった。

「ヴァレリー、俺たちの関係について真剣に考えなくてはならない。いや、考えるべきは今後のことだ。最近、君が俺を疑っているようだ。婚約者から信じてもらえない悲しみを知っているか? 俺は悲しい。こんな関係なら終わらせるべきだと考えた」
「確かに私は貴方の浮気を疑ったわ。謝罪するわ」
「今になって謝罪されても失われてしまった信頼関係は元通りにはならない。だからもうこの関係は終わらせよう」
「チャンスはないの? もう終わるしかないの?」
「……信用するかしないかは君の問題だ。十分な時間はあったはずだろう? それで俺が信じられないから謝罪も遅くなった。違うのか?」
「……信じるためには時間が必要よ。謝罪が遅くなってもそれだけ時間が必要だったということなの。私の都合はお構いなしなの?」
「それだ。そうやって自分に非があろうとも相手を責めるところが問題なんだ。信頼関係だけではなく、もっと別の部分でも相性が悪いのかもしれないな。だからもうやり直すことは無理なんだ。考え直したところで同じことを繰り返すだけだろう」

ここまで言われればヴァレリーだってもういいと思えた。

「わかったわ。婚約破棄したいのでしょう?」
「そうだとも」
「婚約破棄を受け入れてもいいわよ? でも、この書類にサインをしてくれたらの話だけど」

そう言ってヴァレリーは事前に用意しておいた婚約破棄を受け入れるための条件を書いた書類を差し出した。

ルパートは書類を受け取り、内容に目を通した。

「浮気の事実が確認できたら慰謝料を支払うこと、か。結局俺のことを信用していなかったということだな」
「それは関係ないでしょう? ルパートがサインすれば何の問題もないでしょう?」
「まあそうだな」

ここでサインを拒否すれば浮気の事実を認めたことになってしまう。
それに婚約破棄に手間取るようではメリンダから愛想を尽かされてしまう恐れもあった。

ルパートはこれがブラフだと考えた。
ヴァレリーなりの精一杯の仕返しなのだろうと考えた。
浮気の証拠は掴まれていないはずだなのだから。

「いいだろう、サインしよう」

こうしてルパートはサインをしてしまった。
後からでも浮気が確認された場合、莫大な慰謝料を支払う内容だ。

こうして二人の婚約関係は正式に破棄された。



これで終わったのは二人の婚約関係だった。
ヴァレリーは速やかに、それでいて大胆な行動に出たのだ。

ルパートの浮気の証拠や証言をするなら大金を謝礼として支払うと、大々的に発表したのだ。
庶民にとっては大金であり、しかも証言でも十分というのだから極めて都合のいい条件だった。

こうして庶民の間にルパートの浮気で一儲けしようという話が広まった。



数日後、ヴァレリーの元には十分すぎる情報が集まっていた。
ルパートとメリンダが一緒にいた場所と日時まで詳しく知らせてくれた人もいた。

「これだけ決定的な証言が集まれば否定できないわね。下手に否定しようものならボロが出るに決まっているもの。ルパート様ももう終わりね」

ヴァレリーはルパートに対して契約通りの慰謝料を請求する準備を始めた。
そこに元婚約者への温情はない。
騙され浮気され、誤解するような言い訳までされた恨みはまだ晴れていない。
倍返しどころではない仕返しをしなければ気が収まらなかった。
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