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6話
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ルパートはメリンダと薄暗いカフェで密かに会っていた。
人目を避けるには都合の良い店だった。
「メリンダ、ヴァレリーが俺たちの関係に勘付いたかもしれない」
「それで、どうするつもりなの?」
メリンダは動揺する素振りすら見せなかった。
「まだ決定的な証拠は押さえられていないようだ。このままごまかし続けることも可能だろう」
「でもそれだと私はずっと今の関係のままじゃない? それは許さないわよ?」
「わかっているさ。それでヴァレリーに不信感を植え付け、信頼関係がなくなったことを理由に婚約破棄することを考えている」
「ふーん、上手くいきそうなの?」
「ああ。既にアランを利用して浮気は誤解だと思い込ませるようにしている。偶然だがアランに会っていて良かったよ」
「そうだったの。運が良かったのね。まるで私たちの関係が上手くいくように後押ししてくれているみたいじゃない」
「そうだな」
二人は声を潜めて笑いあった。
「それで私はいつまで待てばいいの? あまり焦らすようだと裏切ったとみなすから。そうならないようにしてよね」
「わかってるって。俺はメリンダを失いたくはない。だからヴァレリーと別れることを約束する。もう別れるのも時間の問題だろう。君をあまり待たせないで済むと思う」
「期待しているわよ」
そう言ったメリンダだったが、必ずしもルパートのことを信用しているわけではない。
婚約破棄は簡単ではないことを理解しているため、まだどうなるかわからないと考えていることが大きな理由だった。
それにルパートは調子のいいことを言うときもあり、発言は疑って捉えるべきだと学んでいた。
「それで、この後はどうする?」
「今は油断しないほうがいいでしょ? 我慢できないの?」
「君との今後を考えれば我慢できるさ」
ルパートは建前で答えた。
あわよくばこのまま一緒に過ごすことも考えていたが、メリンダがその気ではないと察し綺麗事のままにすることにした。
「それなら早く片付けてよね。私をいつまでも待たせないでよね」
「わかっているさ」
こうして二人の秘密の逢瀬は終わった。
しばらく時間を置いてからまた別の男女が店から出てきた。
「ね? 浮気は事実だったでしょ?」
「会っていたことは事実だが浮気とは決めつけないほうがいいだろう。そもそも浮気はどこからが浮気なんだ? 体の関係か? 心の問題か?」
「もう! あなたって素直じゃないわね。難しいこと言わないでよ!」
「無理矢理付き合わされたんだ、文句の一つくらい言わせてくれよ」
マイアとアランだった。
ヴァレリーがアランに相談していたことはマイアも聞かされていた。
ルパートの浮気は間違いないと考えたマイアはアランに浮気の事実を明らかにしようと話を持ち掛け、半ば無理矢理に連れ出したのだ。
男女であればそういった雰囲気の店に一緒にいてもおかしくはない。
マイアが考えた完璧な偽装だった。
その甲斐あってルパートとメリンダの関係を把握できたのだ。
「そんなこと言ってるから婚約者もいないのよ」
「失礼なことを平然と言わないでくれ。だから君も婚約者がいないのだろう?」
「侮辱よ侮辱! こんな失礼なこと言われてただで済ませないわよ?」
「被害者は僕のほうだ。無理矢理連れてくるなんて酷いじゃないか。少しは反省してくれ」
「アランのくせに生意気よ!」
「そこまで言われるほど親しくはないんだけどね……」
喧嘩しているような二人を他人は痴話喧嘩だと思い込んだ。
他人から見ればそうなのだが、当事者の二人は気づいていない。
このようなことがあったが、マイアによりヴァレリーへルパートの浮気の事実が知らされた。
次に予想されるのは婚約破棄だった。
事前に知っておけば心の準備もでき、必要な物を揃えることもできる。
ヴァレリーはルパートが婚約破棄すると信じていた。
そこだけは信用していた。
人目を避けるには都合の良い店だった。
「メリンダ、ヴァレリーが俺たちの関係に勘付いたかもしれない」
「それで、どうするつもりなの?」
メリンダは動揺する素振りすら見せなかった。
「まだ決定的な証拠は押さえられていないようだ。このままごまかし続けることも可能だろう」
「でもそれだと私はずっと今の関係のままじゃない? それは許さないわよ?」
「わかっているさ。それでヴァレリーに不信感を植え付け、信頼関係がなくなったことを理由に婚約破棄することを考えている」
「ふーん、上手くいきそうなの?」
「ああ。既にアランを利用して浮気は誤解だと思い込ませるようにしている。偶然だがアランに会っていて良かったよ」
「そうだったの。運が良かったのね。まるで私たちの関係が上手くいくように後押ししてくれているみたいじゃない」
「そうだな」
二人は声を潜めて笑いあった。
「それで私はいつまで待てばいいの? あまり焦らすようだと裏切ったとみなすから。そうならないようにしてよね」
「わかってるって。俺はメリンダを失いたくはない。だからヴァレリーと別れることを約束する。もう別れるのも時間の問題だろう。君をあまり待たせないで済むと思う」
「期待しているわよ」
そう言ったメリンダだったが、必ずしもルパートのことを信用しているわけではない。
婚約破棄は簡単ではないことを理解しているため、まだどうなるかわからないと考えていることが大きな理由だった。
それにルパートは調子のいいことを言うときもあり、発言は疑って捉えるべきだと学んでいた。
「それで、この後はどうする?」
「今は油断しないほうがいいでしょ? 我慢できないの?」
「君との今後を考えれば我慢できるさ」
ルパートは建前で答えた。
あわよくばこのまま一緒に過ごすことも考えていたが、メリンダがその気ではないと察し綺麗事のままにすることにした。
「それなら早く片付けてよね。私をいつまでも待たせないでよね」
「わかっているさ」
こうして二人の秘密の逢瀬は終わった。
しばらく時間を置いてからまた別の男女が店から出てきた。
「ね? 浮気は事実だったでしょ?」
「会っていたことは事実だが浮気とは決めつけないほうがいいだろう。そもそも浮気はどこからが浮気なんだ? 体の関係か? 心の問題か?」
「もう! あなたって素直じゃないわね。難しいこと言わないでよ!」
「無理矢理付き合わされたんだ、文句の一つくらい言わせてくれよ」
マイアとアランだった。
ヴァレリーがアランに相談していたことはマイアも聞かされていた。
ルパートの浮気は間違いないと考えたマイアはアランに浮気の事実を明らかにしようと話を持ち掛け、半ば無理矢理に連れ出したのだ。
男女であればそういった雰囲気の店に一緒にいてもおかしくはない。
マイアが考えた完璧な偽装だった。
その甲斐あってルパートとメリンダの関係を把握できたのだ。
「そんなこと言ってるから婚約者もいないのよ」
「失礼なことを平然と言わないでくれ。だから君も婚約者がいないのだろう?」
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「被害者は僕のほうだ。無理矢理連れてくるなんて酷いじゃないか。少しは反省してくれ」
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このようなことがあったが、マイアによりヴァレリーへルパートの浮気の事実が知らされた。
次に予想されるのは婚約破棄だった。
事前に知っておけば心の準備もでき、必要な物を揃えることもできる。
ヴァレリーはルパートが婚約破棄すると信じていた。
そこだけは信用していた。
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