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ヘミングス公爵からタバサが妻だと紹介された瞬間、ネヴィルもブリトニーも凍り付いた。
タバサに対し侮辱するような言動をしてしまったのだから、もう取り返しがつかない。
「そこにいるネヴィルは私の元婚約者でした。でも隣にいるブリトニーと浮気したため婚約解消をしたのです。それがなければヘミングス公爵に見染められることもなかったでしょう。二人には感謝しています」
「だがな、我が妻を侮辱したことは許せない。ブリトニーだったな? 随分と酷いことを言ってくれたな」
「それは……」
どう言い訳すればこの事態を乗り切れるのかと考えたブリトニーだったが、そのような都合のいい考えが思いつかなかった。
「浮気するような男の婚約者に相応しい令嬢だな。君たちがどういったことをしたのかは忘れないようにする」
それはヘミングス公爵による死刑宣告のようなものだった。
これだけ多くの人の前でヘミングス公爵から敵視されていることが明らかになれば、積極的に関わり合いたいと思う人がいるはずがない。
ブリトニーにしても浮気の事実が明らかにされてしまったため、ネヴィルと婚約を解消しようが次の相手は難しい。
ネヴィルも浮気しタバサを捨て慰謝料すら支払わなかった事実で信用を失い、しかもヘミングス公爵からも敵視されてしまった。
二人には希望なんてあるはずもなく、この先に待っているのは絶望だけだ。
周囲の人たちも侮蔑の視線を二人に向けた。
「……」
「……」
ネヴィルもブリトニーも何も言えなかった。
何も言えないということは謝罪もないということである。
もし謝罪したところでヘミングス公爵が許すことはなかったのだが。
「……君たちはこのような場に相応しくない。今後一切私や妻に関わるな。いいな?」
「はい」
「はい」
「ならば出ていけ」
ネヴィルとブリトニーは会場の出口へと向かった。
二人が婚約関係にあることを多くの人に知らしめるという当初の目的は達成された。
これ以上ない、悪い形で。
二人が去った後、ヘミングス公爵は改めてタバサを紹介した。
「改めて紹介しよう。我が妻、タバサだ」
タバサは恭しく礼をした。
「戯れでメイド服を着せてみたが良いものだな。今度は参加者全員が仮装するパーティーを開いても面白そうだな」
彼の言葉に賛同の声が上がった。
変わり者のヘミングス公爵らしいと思い、タバサの姿にも納得した。
タバサがメイド服を着たのはネヴィルとブリトニーを誤解させるためだった。
二人を招待するよう言い出したのもタバサ。
それを面白がったのはヘミングス公爵。
たとえ後妻であろうと公爵家との縁が深まる婚姻にタバサの親が反対するはずがなかった。
貴族は政略結婚が当然なのだから、この結果は最上に近いものだ。
タバサは貴族の令嬢として政略結婚を受け入れていた。
そこに自分を裏切った相手への復讐ができたのだから文句はない。
こうしてネヴィルとブリトニーは貴族社会から相手にされなくなり、平民からも極力関わらないようにされた。
タバサにとって満足のできる結果だったが、意外なことが一つだけあった。
それはヘミングス公爵との結婚生活が意外にも楽しかったことだ。
歳の差があろうが後妻だろうが彼と一緒にいれば芸術や文化の最先端に触れられる。
新たな楽しみを見出したことでタバサも悪くない結婚だったと思えた。
タバサに対し侮辱するような言動をしてしまったのだから、もう取り返しがつかない。
「そこにいるネヴィルは私の元婚約者でした。でも隣にいるブリトニーと浮気したため婚約解消をしたのです。それがなければヘミングス公爵に見染められることもなかったでしょう。二人には感謝しています」
「だがな、我が妻を侮辱したことは許せない。ブリトニーだったな? 随分と酷いことを言ってくれたな」
「それは……」
どう言い訳すればこの事態を乗り切れるのかと考えたブリトニーだったが、そのような都合のいい考えが思いつかなかった。
「浮気するような男の婚約者に相応しい令嬢だな。君たちがどういったことをしたのかは忘れないようにする」
それはヘミングス公爵による死刑宣告のようなものだった。
これだけ多くの人の前でヘミングス公爵から敵視されていることが明らかになれば、積極的に関わり合いたいと思う人がいるはずがない。
ブリトニーにしても浮気の事実が明らかにされてしまったため、ネヴィルと婚約を解消しようが次の相手は難しい。
ネヴィルも浮気しタバサを捨て慰謝料すら支払わなかった事実で信用を失い、しかもヘミングス公爵からも敵視されてしまった。
二人には希望なんてあるはずもなく、この先に待っているのは絶望だけだ。
周囲の人たちも侮蔑の視線を二人に向けた。
「……」
「……」
ネヴィルもブリトニーも何も言えなかった。
何も言えないということは謝罪もないということである。
もし謝罪したところでヘミングス公爵が許すことはなかったのだが。
「……君たちはこのような場に相応しくない。今後一切私や妻に関わるな。いいな?」
「はい」
「はい」
「ならば出ていけ」
ネヴィルとブリトニーは会場の出口へと向かった。
二人が婚約関係にあることを多くの人に知らしめるという当初の目的は達成された。
これ以上ない、悪い形で。
二人が去った後、ヘミングス公爵は改めてタバサを紹介した。
「改めて紹介しよう。我が妻、タバサだ」
タバサは恭しく礼をした。
「戯れでメイド服を着せてみたが良いものだな。今度は参加者全員が仮装するパーティーを開いても面白そうだな」
彼の言葉に賛同の声が上がった。
変わり者のヘミングス公爵らしいと思い、タバサの姿にも納得した。
タバサがメイド服を着たのはネヴィルとブリトニーを誤解させるためだった。
二人を招待するよう言い出したのもタバサ。
それを面白がったのはヘミングス公爵。
たとえ後妻であろうと公爵家との縁が深まる婚姻にタバサの親が反対するはずがなかった。
貴族は政略結婚が当然なのだから、この結果は最上に近いものだ。
タバサは貴族の令嬢として政略結婚を受け入れていた。
そこに自分を裏切った相手への復讐ができたのだから文句はない。
こうしてネヴィルとブリトニーは貴族社会から相手にされなくなり、平民からも極力関わらないようにされた。
タバサにとって満足のできる結果だったが、意外なことが一つだけあった。
それはヘミングス公爵との結婚生活が意外にも楽しかったことだ。
歳の差があろうが後妻だろうが彼と一緒にいれば芸術や文化の最先端に触れられる。
新たな楽しみを見出したことでタバサも悪くない結婚だったと思えた。
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