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リリアンが回復した後、ローランド王子は彼女の快気祝いを開くことにした。
なおリリアンはローランドがクレアに婚約破棄を告げるタイミングを見計らうため長時間物陰に隠れていた疲労により倒れたのだ。
睡眠不足もあって翌日までぐっすりというのが真相だが、本人以外誰も真相を知ることはない。
毒を疑った医師が無能なのではなく、あまりにもくだらない原因だったことに加えローランド王子が騒ぎ過ぎたことも原因を特定できなかった理由だ。
夕方になり宴が始まった。
音楽が流れ、笑い声が響き渡る中、クレアは少し離れた場所からその光景を見つめていた。
クレアはまだ正式に婚約破棄の手続きが済んでいない。
いくらローランド王子から婚約破棄を告げられようが、今はまだ婚約者ということになる。
実質元婚約者であろうが参加しないわけにはいかなかった。
あえて距離を取っているクレアにローランド王子が話しかけた。
「クレア、少し話せるか?」
「もちろんです、ローランド殿下」
「あまり人に聞かれたくない。バルコニーで話そう」
「はい」
二人は静かなバルコニーに出た。
夜に差し掛かった周囲は暗く、クレアは涼しい風を心地良く感じた。
「クレア、君に感謝の気持ちを伝えたかった。リリアンが回復したのは君のおかげだ。君がいなければ彼女はどうなっていたかわからない。君の言葉が彼女を救ったんだ。感謝している」
「殿下、私は当然のことをしたまでです。改まって礼を言われるほどのことではありません」
「俺の感謝の気持ちはその程度ではない。君の優しさに感銘を受けたんだ」
ローランド王子の意志が固いと判断したクレアはどうすべきか悩んだ。
適当なところまで譲歩し妥協しなくてはローランド王子が納得しないだろう。
関わってほしくないのに関わってくる彼の存在が疎ましかった。
「殿下、私のことよりもリリアンを優先してください。それが私の望みです」
「やはり君は優しいのだな。リリアンに冷たい態度を取られようが許すとは見事なものだ。俺は婚約破棄すべきではなかったのかもしれないな……」
そこに現れたのがリリアンだった。
「ローランド殿下……私を婚約者にすることを後悔していたのですか?」
「リリアン……聞いていたのか……。後悔はしていない。だが迷っている。リリアンだってクレアの優しさを知っただろう?」
「はい、ですが……」
「安心してくれ、リリアン。俺はリリアンのことを愛している」
「殿下……!」
ローランド王子の言葉にリリアンは花が咲いたように笑顔になった。
だが次の瞬間、その笑顔が凍り付くことになる。
「俺はリリアンのことを愛している。だが同時にクレアのことも愛している」
凍り付いたのはクレアも同じだった。
本気なのかと問わずにはいられない。
「……何を言っているのですか?」
「クレア、君を愛しているという気持ちは本物だ。でも、リリアンも大切なんだ。俺は二人を同時に愛している」
「ローランド殿下、それは最低です」
「クレア、そんなこと言わないでくれ」
「殿下は二人を同時に愛すると言いますが、それは侮辱です。そこまで不誠実な人だとは思いませんでした。婚約もいい加減正式に破棄してください。殿下がしないなら私がします。もう私に関わらないでください」
「違う、誤解だ。俺の愛を信じてくれ」
「……最低」
その言葉を残し、クレアはバルコニーを後にした。
なおリリアンはローランドがクレアに婚約破棄を告げるタイミングを見計らうため長時間物陰に隠れていた疲労により倒れたのだ。
睡眠不足もあって翌日までぐっすりというのが真相だが、本人以外誰も真相を知ることはない。
毒を疑った医師が無能なのではなく、あまりにもくだらない原因だったことに加えローランド王子が騒ぎ過ぎたことも原因を特定できなかった理由だ。
夕方になり宴が始まった。
音楽が流れ、笑い声が響き渡る中、クレアは少し離れた場所からその光景を見つめていた。
クレアはまだ正式に婚約破棄の手続きが済んでいない。
いくらローランド王子から婚約破棄を告げられようが、今はまだ婚約者ということになる。
実質元婚約者であろうが参加しないわけにはいかなかった。
あえて距離を取っているクレアにローランド王子が話しかけた。
「クレア、少し話せるか?」
「もちろんです、ローランド殿下」
「あまり人に聞かれたくない。バルコニーで話そう」
「はい」
二人は静かなバルコニーに出た。
夜に差し掛かった周囲は暗く、クレアは涼しい風を心地良く感じた。
「クレア、君に感謝の気持ちを伝えたかった。リリアンが回復したのは君のおかげだ。君がいなければ彼女はどうなっていたかわからない。君の言葉が彼女を救ったんだ。感謝している」
「殿下、私は当然のことをしたまでです。改まって礼を言われるほどのことではありません」
「俺の感謝の気持ちはその程度ではない。君の優しさに感銘を受けたんだ」
ローランド王子の意志が固いと判断したクレアはどうすべきか悩んだ。
適当なところまで譲歩し妥協しなくてはローランド王子が納得しないだろう。
関わってほしくないのに関わってくる彼の存在が疎ましかった。
「殿下、私のことよりもリリアンを優先してください。それが私の望みです」
「やはり君は優しいのだな。リリアンに冷たい態度を取られようが許すとは見事なものだ。俺は婚約破棄すべきではなかったのかもしれないな……」
そこに現れたのがリリアンだった。
「ローランド殿下……私を婚約者にすることを後悔していたのですか?」
「リリアン……聞いていたのか……。後悔はしていない。だが迷っている。リリアンだってクレアの優しさを知っただろう?」
「はい、ですが……」
「安心してくれ、リリアン。俺はリリアンのことを愛している」
「殿下……!」
ローランド王子の言葉にリリアンは花が咲いたように笑顔になった。
だが次の瞬間、その笑顔が凍り付くことになる。
「俺はリリアンのことを愛している。だが同時にクレアのことも愛している」
凍り付いたのはクレアも同じだった。
本気なのかと問わずにはいられない。
「……何を言っているのですか?」
「クレア、君を愛しているという気持ちは本物だ。でも、リリアンも大切なんだ。俺は二人を同時に愛している」
「ローランド殿下、それは最低です」
「クレア、そんなこと言わないでくれ」
「殿下は二人を同時に愛すると言いますが、それは侮辱です。そこまで不誠実な人だとは思いませんでした。婚約もいい加減正式に破棄してください。殿下がしないなら私がします。もう私に関わらないでください」
「違う、誤解だ。俺の愛を信じてくれ」
「……最低」
その言葉を残し、クレアはバルコニーを後にした。
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