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8話

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行く当てのないサンドラは気付いたら港街に辿り着いていた。
交易で栄えるその街は仕事に困ることもなく、サンドラは酒場の給仕という仕事を得ることができた。
給仕という慣れない仕事もサンドラは楽しく感じられ、家族に虐げられていた日々では考えられないほどの充実感を得られていた。

サンドラにとって家にいた日々は過去のものになっており、知る人のいないこの街で自分らしい人生を歩み始めていた。



ある日のこと、夜も更け、酒場は船乗りや地元の住人たちで賑わっていた。
彼女は忙しくテーブルを回り、注文を取り、飲み物を運び続けていた。

その時、近くのテーブルで船乗りたちが話しているのが耳に入った。

「聞いたか? 貴族の夫妻が事故で亡くなったらしいぞ。馬車の事故だという話だが怪しいよな?」
「怪しいな。遺産目当てか? ま、俺たちには関係ないな!」
「他人の不幸で酒が美味い! どうやら婿入りした男が犯人らしいぞ」
「やはり遺産目当てだったか。金なんてあるところにはあるもんだな」

サンドラの手が一瞬止まった。
話している内容が自分の両親やコービーのことだと直感的に理解した。

しかし、彼女は表情を変えず、冷静を装っていた。
心の中では動揺が広がっていたが、外にはそれを見せなかった。
もう過去のことだと思っていたのに、話を耳にしただけで動揺してしまった。

気になってしまった以上、考えずにはいられない。

本当にコービーが関与しているのかと考えたが噂話では真実なんてわかるはずがない。
だが犯人らしいと言われているのだから根拠があるはず。
ヘンリーが関わった可能性もあるが真実は不明だ。

いずれにせよサンドラが考えたところで真実がわかるはずもない。

だが両親の死を知ったことで自分の中で何かが変わったようにも思えた。
そしてふと思った。

――もう何もかもを忘れて新しい人生を歩みたい。

誰も知らない街で給仕として働く人生ではまだ過去を捨てきれていない。

サンドラは名前を捨て別の国で新たな人生を歩むことを思いついた。
幸いなことにここは港街。
その気になれば他国へ行くことも難しくない。

思いついてしまった未来に心が惹かれ、もうそうするしかないと思えた。

その夜の仕事が終わり、サンドラは店主に仕事を辞めると告げた。
店主は引き止めたもののサンドラの意思が固いと理解し、快く送り出してくれた。



港で船を待つサンドラは潮の香りとともに自由の風を感じた。
彼女の心は新しい国での新しい人生への希望に満ちていた。

「さようなら、今までの私」

こうしてサンドラの人生は一つの区切りを迎えた。
それは不幸な人生の終わりであり、希望へ向かう始まりでもあった。
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