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7話
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時はサンドラが家を出たところまで遡る。
行く当てもなく街を彷徨っていたサンドラは偶然にもコービーの弟、ヘンリーと出会った。
サンドラはヘンリーと面識があるとはいえ親しくはしていない。
婚約者の家族なのだから少しくらい親しくしてもいいと考えたが、それを許さなかったのがコービーだった。
リザではないのだから目移りしたりはしないのに、と内心思ったが口には出さなかった。
少々の嫉妬なら可愛いものだと当時は考えており、今となっては思い出すだけでも不愉快になってしまう記憶だ。
サンドラの姿を見るなりヘンリーは声をかけた。
「サンドラさん、こんなところで何をしているのですか?」
「ヘンリーさん……。あなたは何も知らないのですか?」
「何を? まさか兄が何かしたのですか?!」
「……はい」
ヘンリーの様子から本当に何も知らないのだとサンドラは判断した。
それは敵ではないということ。
「よろしければ詳しく教えていただけませんか?」
サンドラは少し考え、ヘンリーと話をすれば道が開けるかもしれないと判断し、詳しく話すことに決めた。
「わかりました。でも長くなりますよ?」
「構いません。では適当な店にでも入りましょう」
こうして二人は目についたカフェへと入り、話を始めた。
一通りサンドラの話を聞いたヘンリーはため息をついた。
そして自分の境遇を語り出した。
「実は僕も兄に冷遇されてきました。両親からもです。両親が亡くなってからは兄が財産を独り占めしようとしました」
「そんなことがあったのですね……」
まさかヘンリーも自分と同じような境遇だったとは夢にも思わず、サンドラは同情せずにはいられなかった。
「サンドラさん、僕も貴女と同じように兄に苦しめられてきました。一緒に復讐しませんか?」
サンドラは首を振り提案を拒否した。
いくら恨みがあろうとも復讐したいとは思わなかった。
自分が復讐するということに忌避感があったため悩むまでもなかった。
それにヘンリーの境遇に同情することはあってもそれまでだ。
これ以上コービーたちに関わりたくなかった。
「……わかりました。無理に誘ってしまい申し訳ありませんでした」
「ヘンリーさんが何をしようとも私は口出ししません。自分の人生は自分で決めるべきですから」
「そうですね。僕は僕自身のために兄に復讐します。そうしないと前へ進めませんから」
ヘンリーは真剣だった。
それが復讐のためであろうとも彼自身が決めたことだった。
サンドラにできることは無事に目的を達成できることを祈るだけだった。
こうして二人は別々の道を歩むことになった。
復讐のために生きるヘンリーと、復讐を望まないサンドラ。
カフェからの帰り、ヘンリーは独り言をつぶやいた。
「コービー兄さん、今までしたことは必ず償わせるから」
ヘンリーの頭の中ではいくつもの計画が思い浮かんでいた。
必要な情報はサンドラとの会話で得られていた。
そして家族への感情も。
行く当てもなく街を彷徨っていたサンドラは偶然にもコービーの弟、ヘンリーと出会った。
サンドラはヘンリーと面識があるとはいえ親しくはしていない。
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リザではないのだから目移りしたりはしないのに、と内心思ったが口には出さなかった。
少々の嫉妬なら可愛いものだと当時は考えており、今となっては思い出すだけでも不愉快になってしまう記憶だ。
サンドラの姿を見るなりヘンリーは声をかけた。
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「……はい」
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それは敵ではないということ。
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こうして二人は目についたカフェへと入り、話を始めた。
一通りサンドラの話を聞いたヘンリーはため息をついた。
そして自分の境遇を語り出した。
「実は僕も兄に冷遇されてきました。両親からもです。両親が亡くなってからは兄が財産を独り占めしようとしました」
「そんなことがあったのですね……」
まさかヘンリーも自分と同じような境遇だったとは夢にも思わず、サンドラは同情せずにはいられなかった。
「サンドラさん、僕も貴女と同じように兄に苦しめられてきました。一緒に復讐しませんか?」
サンドラは首を振り提案を拒否した。
いくら恨みがあろうとも復讐したいとは思わなかった。
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それにヘンリーの境遇に同情することはあってもそれまでだ。
これ以上コービーたちに関わりたくなかった。
「……わかりました。無理に誘ってしまい申し訳ありませんでした」
「ヘンリーさんが何をしようとも私は口出ししません。自分の人生は自分で決めるべきですから」
「そうですね。僕は僕自身のために兄に復讐します。そうしないと前へ進めませんから」
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「コービー兄さん、今までしたことは必ず償わせるから」
ヘンリーの頭の中ではいくつもの計画が思い浮かんでいた。
必要な情報はサンドラとの会話で得られていた。
そして家族への感情も。
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