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6話

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アイリスはヴィクターに離婚を告げることにした。
ある日の夜、彼女はヴィクターの書斎を訪ねた。

「ヴィクター、話があるの。私たちにとって重要なことなの」
「もったいぶらなくていい。どういったことなんだ?」
「私はもうこれ以上耐えられないの。あなたがローザ夫人と関係を続けるつもりなら、私はあなたと離婚したい」
「アイリス、君の気持ちは分かるが、ローザとの関係は続けなくてはならない。それが商会のためだからな。もしそれが君にとって耐えられないのなら離婚に応じるしかない」

ヴィクターの答えはアイリスの予想通りだった。
ならば予定通り離婚を告げるしかない。

「分かりました。では離婚しましょう。私は商会を去ります」
「アイリス、君がいなくなるのは商会にとって大きな損失だ。君の才能と努力は誰もが認めている。でも今の商会に必要なのはローザ夫人なんだ」
「そのことは承知しているわ。私は貴方の選択を尊重する。でもそうすると私は商会にはいられないの。私の気持ち、わかる?」
「わかるとも」
「そう……」

ヴィクターは今までアイリスに肯定され続けてきたので自分の判断が正しいと思い込むようになっていた。
当然都合良く考え、アイリスは商会のために自分が喜んで犠牲になるのだと考えていた。
アイリスを失おうともローザ夫人がいれば商会は安泰だと考えていたのだ。

「私の役目はもう終わったと思うの。ヴィクターはかつてとは別人みたいに自信に満ち溢れているじゃない。それはもうまぶしいくらいに。私だって輝きたいのよ」
「そうか、ならばこれからは自分のために生きるといい」

ヴィクターは何の未練もなく、むしろアイリスを疎ましく感じているようだった。
当然言葉の裏に隠されている皮肉に気付くはずもない。

「こうなってしまったのね。こうなるとは夢にも思わなかったわ……」
「そうだな、人生何があるかわからないものだ。アイリスの幸せを祈っているよ」
「ありがとう、ヴィクター。貴方もどうか幸せに」

アイリスは最後に微笑んで言った。
理解のある良い妻を演じるのはこれが最後なのだから。
ヴィクターが余裕でいられるのは今だけなのだから。



離婚の手続きが進む中、アイリスは商会の従業員たちに自分が去ることを告げた。
従業員たちは驚きと悲しみを隠せなかったが、彼女の新たな人生を応援してくれた。

「アイリス様、あなたがいなくなるのは寂しいですが、新たな人生を応援しています。どうかお幸せに」
「ありがとう。私はこれから新しい人生を歩むことになるわ。ここでの経験は一生忘れないわ」

従業員たちは温かい拍手と共に、アイリスを送り出した。

その様子を見ていたヴィクターはほくそ笑んだ。
アイリスがいたから今の商会があるという陰口を彼は知っていた。
それももうアイリスがいなくなるのだから陰口を言わせないような結果を出せばいいとヴィクターは考えていた。

ヴィクターは知らなかった。
従業員たちはヴィクターを欺くために演じていることを。



アイリスは新たな一歩を踏み出しながら、心の中で思った。

――ヴィクターとローザ夫人の関係はいつまで続くのかしらね?
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