【完結】優秀な私のせいで夫が自信を失ってしまいました

5話

ある日の午後、商会の幹部たちは深刻な顔をして会議室に集まった。
そこに会頭であるヴィクターの姿はない。
何のための会議なのかは事前に知らされており、問題行動ばかりのヴィクターがいないことで幹部たちは安堵した。

幹部の一人が緊張した表情で話を切り出した。

「アイリス様、商会の経営が非常に危うい状況です。資金不足が深刻で、このままでは破綻する可能性があります」
「その原因はヴィクターの経営判断のミスです。彼が場当たり的な判断を繰り返して経営が悪化したのは知っての通りですが、それよりも問題なのはローザ夫人との関係です。薄々は気付いていたでしょう？」

アイリスの問いかけに幹部たちは頷いた。

「名目は領主夫人との関係を強めることで商会を優遇してもらうという考えのようです。ですが不倫関係にあるのにどうして商会の利益になるのでしょうか？　事実を領主様が知ったらどうなると思いますか？」

アイリスの脅しに幹部たちも震えあがった。
領主といえば領地の最高権力者であり、その妻に手を出したとなれば商会程度なんて簡単に倒産させられてしまうだろう。

「そのような間違った行為にヴィクターは商会の金を使い夫人に貢いだのです。経営が悪化するのも当然です」
「アイリス様、どうかこの状況を何とかしてください。私たちの生活がかかっています」
「心配しないでください。私はこの状況を予見して、すでに準備を整えています」
「さすがアイリス様！　あなたの判断力と準備のおかげで我々は救われます。これからもどうかよろしくお願いします！」
「もちろんです。皆さんが安心して働けるよう、全力を尽くします」

幹部たちはアイリスを称賛し安堵した。
かつての優秀なアイリスであればこのような状況からでも商会を立て直すことが可能だと信じていた。

だが、そこに希望を打ち砕く言葉が告げられた。

「ですがマーカス商会はもう手遅れです。倒産は避けられないでしょう」
「どうしてですか？！　先ほど全力を尽くすと言ってくれたではありませんか！」
「慌てないでください。皆さんの生活のことは考えてあります。働くのはこの商会である必要はありませんよね？　ヴィクターのような無能が偉そうにしている商会で働きたいですか？」
「働きたくないです」

何人もの幹部が同じことを言った。
他の幹部も同じようなことを言ったので、実際には全員が同じ気持ちだった。

アイリスは微笑み言葉を続ける。

「ですので新しい商会を立ち上げます。今度の商会はもっと素晴らしいものになるでしょう。でもその前に片付けなくてはならない問題があります」
「それは何でしょう？」

アイリスの笑顔が悪そうなものになった。

「こうなった責任を取ってもらわないといけませんよね？　そうしないと我々は前へ進めません」

この場の誰もがヴィクターの破滅を予感した。