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4話

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自分が愛されていないなら夫は誰を愛しているのか。
そう疑問を抱いたアイリスは夫の行動を調べることにした。

その結果は簡単だった。
ヴィクターはしばらく前からラムゼイ伯爵夫人ローザのもとへ頻繁に通うようになっていた。
しかも不自然な金品の流れも確認できた。

そこから導き出される結論は一つしかない。



その夜、書斎にいるヴィクターをアイリスは尋ねた。

「どうした? 何か用なのか?」
「ヴィクター、ローザ夫人と関係を持ったの?」

アイリスのストレートな問いにヴィクターは一瞬驚きの表情を浮かべたが、ごまかす必要もないと考え、堂々と答えることにした。

「ああ、そうだ。貴族との伝手を作るのは商売にとっても有利に働くだろう。それに俺に惚れさせれば商会を優遇してくれるだろう? これはマーカス商会にとっても利益になることだ」
「そのために体の関係も?」
「ああ、そうだとも。ローザ夫人と体の関係を持った。でも、これは商会の利益のためだ。愛があってのことではない」

そのようなことで裏切られたのかとアイリスは彼に失望した。
全ての努力が無駄になり、今まで彼のために尽くしてきた全てが無駄だと思うと果てしない徒労感を覚えることになった。

しかしアイリスはその言葉を聞いてもなお微笑みを浮かべた。

「ヴィクター、それは素晴らしい判断だわ。貴族との関係を強化することは商会の利益になることだもの。もっとローザ夫人に入れ込んで、彼女との関係を深めればいいわ」

ヴィクターはアイリスの反応に驚きつつも、彼女が怒るどころか賛同したことに自信を深めた。

「わかった。もっと彼女に尽くして篭絡し、商会のために役立てるようにする」
「さすがヴィクターね。そこまで商会のことを考えているなんて立派よ。尊敬するわ」
「理解してくれて助かるよ」

ヴィクターはアイリスの言葉を言葉通りに受け止めた。
その言葉の裏で彼女が何を考えているのか想像すらしていない。

アイリスはヴィクターを肯定し称賛するのは言葉だけ。
その裏では将来のために密かに動き始めていた。



それからのヴィクターは言葉通りに行動した。
ますますローザ伯爵夫人に入れ込むようになり、彼女に贈り物を贈り、頻繁に会うようになり、二人の関係はますます深まっていった。
その結果をアイリスは相変わらず肯定し称賛した。

そうしている間にマーカス商会の経営も怪しくなってきた。

「アイリス様、いい加減に手を打たないと商会の経営が危ないです。どうにかしてください」
「会頭はあれだもの。私がどうにかしないといけないわよね」

その言葉を聞いた従業員は期待に目を輝かせた。
かつての優秀なアイリスが戻ってくるのではないかと希望を抱いた。

「幹部を集めてちょうだい。重要な会議をするわ」
「はい!」

従業員は連絡に走った。
これで商会も立て直せるだろうという希望を胸に、未来のために走った。
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