【完結】優秀な私のせいで夫が自信を失ってしまいました

2話

いつしかヴィクターは自信を失い、このままでは自分がダメになると考えていた。
アイリスの優秀さは有難くもあったが、彼の自信にとっては悪影響しか及ぼさない。
どれだけ努力してもアイリスの優秀さには及ばない。

マーカス商会は自分の手に負えないほど大規模になっていた。
それは間違いなくアイリスの功績であり、自分の功績ではない。

その事実がヴィクターの自信をますます失わせる。
彼はアイリスの献身を理解しつつも自分のために彼女に気持ちを打ち明けるべきだと考えた。



ある夜、アイリスがヴィクターの書斎を訪ねてきた。

「ヴィクター、少し話がしたいの。いいかしら？」

アイリスが優しく声をかけたが、ヴィクターはこれはチャンスだと思った。
彼女の用件なんかよりも自分の用件を優先させる。

「アイリス、俺は……俺は自分が価値のない人間のように思えるんだ。マーカス商会の会頭かもしれないがお飾りのようなものでしかない。そんな自分が惨めに思えるんだ……」

アイリスはその言葉に驚いた。
夫がそれほどまでに悩んでいるとは思っておらず、自分が助けなくてはならないと思った。

「ヴィクター、大丈夫よ。貴方は立派だもの。もっと自信を持てばいいのよ」
「簡単に言ってくれるが、それがどれだけ難しいのか理解できないのか？　アイリスが優秀すぎて俺の存在が霞んでしまう……」

自分のせいだと知り、アイリスは深く反省した。
だがそんなときこそ妻である自分が支えなくてはならないと考えた。

彼女は妻でありヴィクターは夫である。
夫を立てるのが妻に求められるものであるなら、商会の場でも同じようにすればいい。

どうすればいいのか、アイリスは閃いた。

「私のせいだったのね……。ごめんなさい、これからは貴方をもっと立てるようにするわ。あなたが会頭として輝くために、私がサポートする」
「期待しないでおくよ……。言葉ではなく行動で証明してくれ……」
「……わかったわ」

ヴィクターは重症だとアイリスは考え、それ以上の言葉はかけなかった。



それからのアイリスは目立つことを自重した。
ヴィクターのために綿密な計画を立て、彼の発案としていくつもの成果を上げた。
さすが会頭と称賛されるヴィクター。

ヴィクターはアイリスが用意した計画通りに振る舞い、周囲の評価も上がっていった。
しかし、その評価は彼自身の力ではなく、アイリスの陰の努力によるものであることをヴィクターは自覚している。
お飾りではなくなったのかもしれないが、今度は操り人形だと思った。



ある日、ヴィクターはアイリスに向かって言った。

「アイリス、俺は不本意だ。こんな形で評価されても俺の心は満たされない。お前は俺のためになっていない」

その言葉にアイリスはショックを受け、涙がこぼれ落ちた。

「ヴィクター、私は貴方のために最善を尽くしたつもりだったのに……」
「お前の努力はわかっている。でも、俺は自分の力で認められたいんだ」

アイリスはその言葉に胸を痛めながらもヴィクターの本当の気持ちを理解した。
そして自分がヴィクターの本当の気持ちを軽んじるようなことをしてしまったのだと深く反省した。

「わかったわ。今度はもっと別の方法で上手くやるわ」
「……期待しないでおく。どうか失望させないでくれよ」

アイリスは諦めない。
ヴィクターはまたアイリスがやらかすのではないかと不安を抱いた。