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会議室にマーカス商会の幹部たちが集まり、重要な会議が進行していた。
その場の主役は会頭のヴィクターではなく、その妻、アイリスだった。
アイリスの存在はひときわ目立った。
彼女の冷静な判断と指摘が会議の方向を的確に導いていた。
誰もがアイリスの能力を認め敬意を払っていた。
それこそ会頭のヴィクターよりも。
「次の貿易ルートについてですが、ここの港を使う案があります」
幹部の一人が地図の一部を指し示しながら提案した。
アイリスはその提案を一瞥し、すぐに的確なアドバイスを返した。
「その港の付近では海賊の活動が活発化しているという情報が入っています。代わりにここを使いましょう。距離は少し遠いですが安全性は高いです」
「ですが時間がかかってしまうのでは?」
「海賊の餌食になるほうが問題です。我々は商品を失うことなく運ばなくてはなりません。それは取引先との信用にも関わる問題です」
「その通りです。みっともない質問、失礼しました」
このようにアイリスは他の幹部よりも優秀であり尊敬を集めている。
それを内心苦々しく思っているのがヴィクターだった。
「ヴィクター会頭、この貿易ルートでよろしいでしょうか?」
「それでいい。細かいところは任せる」
「はい、承知しました」
ヴィクターが承認し、方針は決定した。
このようにヴィクターはお飾りのような存在だった。
彼自身も商会を経営しているのだから能力はそれなりにあった。
それを現状の規模まで拡大させたのが妻のアイリスだった。
アイリスはマーカス商会で働いていたが優秀ですぐに頭角を現した。
この人材を逃してはならないとヴィクターは思い、愛と情で縛ることを考え、交際に持ち込んだのだ。
そしてマーカス商会は順調に発展を遂げ、ヴィクターはアイリスと結婚した。
それからも商会は発展を遂げていたが、それは間違いなくアイリスの功績だった。
ヴィクターの存在が霞んでしまうほどに。
会議が終わり、幹部たちが退室する中、ヴィクターはアイリスに近づいた。
「お前は本当に優秀だな。これでマーカス商会もさらなる発展を遂げるだろう」
「ありがとう、ヴィクター。でもこれは貴方のためなの。あなたが会頭を務めるマーカス商会のためだもの」
ヴィクターの皮肉交じりの言葉にアイリスは微笑みながら答えた。
皮肉すら通用しないことにヴィクターは苦々しい思いを強めるだけだった。
アイリスにとっては善意でしかなく、ヴィクターが皮肉を言っていることすら気付いていなかった。
「これからも頼りにしているぞ」
「ええ、期待していて」
ヴィクターは自分の気持ちと商会の利益の間で揺れていた。
アイリスの優秀な姿は会議でも証明された。
その一方で自分は置物のような存在だった。
アイリスに任せておけば商会の経営も安泰だろう。
だがそれでは自分の存在意義が危うくなる。
アイリスが優秀すぎて自分に価値がないのではないかという思いを強めるには十分な出来事だった。
このような出来事は以前からも繰り返され、これからも繰り返されていく。
いつしかヴィクターは自信を失うようになり、アイリスの存在が邪魔だと思うようになっていた。
その場の主役は会頭のヴィクターではなく、その妻、アイリスだった。
アイリスの存在はひときわ目立った。
彼女の冷静な判断と指摘が会議の方向を的確に導いていた。
誰もがアイリスの能力を認め敬意を払っていた。
それこそ会頭のヴィクターよりも。
「次の貿易ルートについてですが、ここの港を使う案があります」
幹部の一人が地図の一部を指し示しながら提案した。
アイリスはその提案を一瞥し、すぐに的確なアドバイスを返した。
「その港の付近では海賊の活動が活発化しているという情報が入っています。代わりにここを使いましょう。距離は少し遠いですが安全性は高いです」
「ですが時間がかかってしまうのでは?」
「海賊の餌食になるほうが問題です。我々は商品を失うことなく運ばなくてはなりません。それは取引先との信用にも関わる問題です」
「その通りです。みっともない質問、失礼しました」
このようにアイリスは他の幹部よりも優秀であり尊敬を集めている。
それを内心苦々しく思っているのがヴィクターだった。
「ヴィクター会頭、この貿易ルートでよろしいでしょうか?」
「それでいい。細かいところは任せる」
「はい、承知しました」
ヴィクターが承認し、方針は決定した。
このようにヴィクターはお飾りのような存在だった。
彼自身も商会を経営しているのだから能力はそれなりにあった。
それを現状の規模まで拡大させたのが妻のアイリスだった。
アイリスはマーカス商会で働いていたが優秀ですぐに頭角を現した。
この人材を逃してはならないとヴィクターは思い、愛と情で縛ることを考え、交際に持ち込んだのだ。
そしてマーカス商会は順調に発展を遂げ、ヴィクターはアイリスと結婚した。
それからも商会は発展を遂げていたが、それは間違いなくアイリスの功績だった。
ヴィクターの存在が霞んでしまうほどに。
会議が終わり、幹部たちが退室する中、ヴィクターはアイリスに近づいた。
「お前は本当に優秀だな。これでマーカス商会もさらなる発展を遂げるだろう」
「ありがとう、ヴィクター。でもこれは貴方のためなの。あなたが会頭を務めるマーカス商会のためだもの」
ヴィクターの皮肉交じりの言葉にアイリスは微笑みながら答えた。
皮肉すら通用しないことにヴィクターは苦々しい思いを強めるだけだった。
アイリスにとっては善意でしかなく、ヴィクターが皮肉を言っていることすら気付いていなかった。
「これからも頼りにしているぞ」
「ええ、期待していて」
ヴィクターは自分の気持ちと商会の利益の間で揺れていた。
アイリスの優秀な姿は会議でも証明された。
その一方で自分は置物のような存在だった。
アイリスに任せておけば商会の経営も安泰だろう。
だがそれでは自分の存在意義が危うくなる。
アイリスが優秀すぎて自分に価値がないのではないかという思いを強めるには十分な出来事だった。
このような出来事は以前からも繰り返され、これからも繰り返されていく。
いつしかヴィクターは自信を失うようになり、アイリスの存在が邪魔だと思うようになっていた。
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