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1話

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まだジュリアナが幼い頃の話。

ジュリアナは緑豊かな庭園で遊んでいた。
一緒に遊んでいた男の子はミック。
彼は無邪気な笑顔で、ジュリアナは彼を見つめるたびに心の奥底が高鳴るのを感じた。
いつしか彼女の心の中ではミックの存在が特別になっていたのだ。

しかし、幸せな日々は長くは続かなかった。

ある日、ジュリアナは妹のマリアンがミックと楽しそうにおしゃべりしている様子を見てしまった。
自分と遊んでいるときとは違う表情。
マリアンは愛らしい笑顔でミックの心を奪ったのだ。

「ミック、わたしと一緒に遊びましょう!」
「うん、マリアン、一緒に遊ぼう!」

マリアンの誘いに応じたミックを見て、ジュリアナの胸は締め付けられるような痛みを感じた。
ミックは楽しげに笑い、マリアンの手を取った。

その瞬間、ジュリアナの心は破裂しそうなほどの悲しみに包まれた。
彼女はその場から逃げ出した。



その日以来、ジュリアナはミックへの気持ちを隠すことに決めた。
彼女はミックに微笑みかけながらも、心の中では彼はもうマリアンのものなのだと思っていた。
ジュリアナは自分の想いを胸に秘め、彼がマリアンと楽しそうにしている姿を見るだけだった。

「どうしてこんなにも辛いのだろう……」

ジュリアナは呟いた。
彼女は幼いながらも恋の苦しみを理解し始めていた。
自分の中で膨れ上がる嫉妬と悲しみが心をじわじわと蝕んでいった。

ジュリアナはそんな自分が嫌になってしまった。

「もう忘れよう。こんな私は嫌だもの。ミックはマリアンを選んだのだから……」

ジュリアナは涙をこぼした。
彼女の初恋はマリアンによって無残な結果になってしまったのだ。



そのマリアンは、いつしかミックと一緒に遊ぶこともなくなっていた。
まるで興味を失ったのか、ミックの名が彼女の口から出ることはなかった。

ジュリアナにとって大切だったはずのミックはマリアンにとっては大切でもなかった。
そのせいで悲しい思いをしたが、ジュリアナはマリアンを責めることもなく、ミックを責めることもなかった。
自分が選ばれなかっただけであり、後のことがどうなろうとも口出しすることができないと考えていた。

「ミックの馬鹿……」

それがジュリアナが言った唯一の文句だった。



それから時は流れ、ミックとの淡い思い出も忘れた頃、ジュリアナにはマーキースという婚約者がいた。
最初こそ幸せそのものだったが、いつしかマーキースの態度が変わったように彼女は感じていた。

「まさかとは思うけど……マリアンが何かしてはいないわよね……」

ジュリアナが思い出したのはミックとのこと。
マリアンに奪われた記憶は思い出せば今でも心を苦しめる。

マリアンはわがままに成長していたので婚約者を奪うという非道な行為であれ遠慮することはないとジュリアナは考えた。

「考えすぎよね……」

そう言おうが彼女の不安は消えることがなかった。
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