上 下
1 / 8

1話

しおりを挟む
キャシーは父親の書斎に呼ばれた。
重厚なドアを開けると、父親は書類を整理しながら彼女を迎え入れた。
その隣には母親も控えている。

「キャシー、来てくれてありがとう。今日は大切な話があるんだ」
「何でしょうか、お父様?」

彼は穏やかに言いい、キャシーは真剣な表情で問いかけた。
父親は微笑みキャシーへ伝える。

「実は、キャシーの婚約者が決まったんだ。相手はカルヴィン・バクスターだ」

キャシーは驚きと共に困惑した。
カルヴィンの名前は貴族社会でよく知られており、その評判も聞いていた。
何しろバクスター公爵家の令息でありカルヴィン本人も家柄も立派なものだ。
キャシーは婚約者が立派過ぎて釣り合いが取れるのかと不安を覚えた。

「カルヴィン様ですか? 彼は非常に素晴らしい方だと聞いておりますが、私なんかでよろしいのでしょうか?」
「カルヴィンは確かに素晴らしい人物だ。彼は公爵家の令息で、非常に聡明で、社交界でも一目置かれている。だがキャシーにはもったいないなんて思わないでほしい。キャシーは素晴らしい娘だ」
「でも、お父様……」
「自信を持ちなさい、キャシー。君は私たちの誇りだ」
「そうよキャシー、あなたはこんなに立派に成長したのよ。幼かった頃がまるで昨日のことのように感じるわ。もっと自信を持って」
「お父様、お母様……」

両親の説得を受け、キャシーも自分はカルヴィンの婚約者として恥ずかしくないのだと自信を持った。

その心中を知らない両親はキャシーの思い出話に花を咲かせた。

「幼い頃のキャシーは、いつも庭で花を摘んでいたわね。庭師を困らせていたのに立派になって……」
「そうだな、あの頃は本当に無邪気だった。それが今では立派な淑女になった。月日が流れるのは早いものだな」

両親は懐かしそうに話し笑った。
キャシーは恥ずかしさで頬を赤らめた。

「お父様、お母様、そんな昔の話をしないでください」
「でも、それも今のキャシーがあるからこその話だ。あの頃は苦労したが立派に育つと信じていた」
「お父様、お母様、ありがとうございます。私のためにいろいろと考えてくださって」
「キャシーの幸せが私たちの願いだ。これで幸せになれると信じている」
「そうよ、キャシー。私たちはいつもあなたの幸せを祈っているわ」

こうして、キャシーはカルヴィンの婚約者としての生活が始まることになった。

カルヴィンとの婚約が決まり、彼女の毎日は急に慌ただしくなった。
新しい役割に対する準備や、社交界での挨拶回りなど、キャシーは忙しい日々を過ごしながらも、両親の愛と支えを胸に刻み、新たな未来に向けて歩き始めた。

ただ一つだけ不安があった。
キャシーはまだカルヴィンに会ったことはない。
噂とは違った人だったらどうしよう、と不安に思ったが、幸せになると信じて疑わない両親のことを思うと口には出せなかった。

キャシーは不安を抱いたままカルヴィンと初めて会う日を待った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が幼馴染のことが好きだとか言い出しました

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のテレーズは学園内で第6王子殿下のビスタに振られてしまった。 その理由は彼が幼馴染と結婚したいと言い出したからだ。 ビスタはテレーズと別れる為に最悪の嫌がらせを彼女に仕出かすのだが……。

婚約者は幼馴染みを選ぶようです。

香取鞠里
恋愛
婚約者のハクトには過去に怪我を負わせたことで体が不自由になってしまった幼馴染がいる。 結婚式が近づいたある日、ハクトはエリーに土下座して婚約破棄を申し出た。 ショックではあったが、ハクトの事情を聞いて婚約破棄を受け入れるエリー。 空元気で過ごす中、エリーはハクトの弟のジャックと出会う。 ジャックは遊び人として有名だったが、ハクトのことで親身に話を聞いて慰めてくれる。 ジャックと良い雰囲気になってきたところで、幼馴染みに騙されていたとハクトにエリーは復縁を迫られるが……。

愛さなかったのは貴方ですよね?

杉本凪咲
恋愛
彼に愛されるために、私は努力をした。 しかしそれは無駄だったようで、彼は私との婚約に悲観をこぼす。 追い打ちをかけるように階段から突き落とされた私だが、それをきっかけに人生が逆転して……

私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。

いじめてきたのはあなたの方ですよね?

ララ
恋愛
いや、私はあなたをいじめてなどいませんよ。 何かの間違いではないですか。 むしろいじめてきたのはあなたの方ですよね?

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……

小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。 この作品は『小説家になろう』でも公開中です。

結婚六年目、愛されていません

杉本凪咲
恋愛
結婚して六年。 夢に見た幸せな暮らしはそこにはなかった。 夫は私を愛さないと宣言して、別の女性に想いがあることを告げた。

処理中です...