【完結】夫にまんまと騙されました

紫崎 藍華

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4話

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「賑やかなところね」
「ええ、驚いたわ」

酒場には賑やかで活気に溢れた場所で、彼女たちはその雰囲気に圧倒されつつも、どこか心が解放されるのを感じた。
貴族社会での常識である礼儀作法とは無縁の、大衆向けの酒場ならではの世界がそこにあった。
店内の騒がしさがクラリスの悲しみを忘れさせ、彼女の顔には久しぶりに笑顔が浮かんでいた。

二人はカウンターに座り、ワインを注文して微妙な味わいに微妙な表情を浮かべた。

「こんなの初めて。自分が狭い世界に生きているって理解したわ」
「私もよ」

そんなことを言いつつも二人はこの場、この時間を楽しんでいた。
二人にとっての非日常は現実の悲しみを忘れさせた。
楽しんでいるクラリスを見たベアトリスは、誘って良かったと思った。

そこに一人の男性が近づいてきた。

「お嬢さん方、楽しそうだな。一緒に飲まないか?」
「……」
「いいわよ、貴方も楽しませてくれるの?」
「もちろんだとも」

胡散臭く微笑む男性にベアトリスは警戒心を抱き断ろうとしたが、クラリスはすでに酔いが回っていたため男性の提案を受け入れてしまった。
ベアトリスは警戒心を解くことはなく、注意深く男性に意識を向けることにした。

その男性はブライアンと名乗り、彼の胡散臭くも優しい笑顔と話しやすい雰囲気に、クラリスは次第に心を開いていった。
彼女は自分の身の上話を始め、ケネスの浮気疑惑やその後の真実を涙ながらに語った。
ブライアンは静かに耳を傾け、時折頷きながらクラリスの話を聞いていた。

ブライアンはクラリスの話を聞き終えると、真剣な表情で言った。

「ケネスの行為は許せない。君のような素晴らしい女性を傷つけるなんて信じられないよ」

その言葉にクラリスは救われた気持ちになり、彼が自分を理解してくれることに感謝した。
嬉しさもあり、酔った勢いでポツリと呟いた。

「ブライアンさんが夫だったら良かったのに……」

ブライアンは微笑みながら、真剣な眼差しでクラリスを見つめた。

「それなら、結婚しよう」

驚いたクラリスは一瞬言葉を失ったが、ブライアンの真摯な態度に心を揺さぶられた。
まるで酔いが回ったように思考は鈍り、ブライアンの言葉が繰り返される。

ベアトリスは友人の幸せを願いつつもブライアンが相手で大丈夫なのかと不安に駆られた。
だが今はクラリスの反応を見守ることにした。

だが酒場の客たちは静かに行く末を見守るようなマナーも何もない。

ブライアンの突然のプロポーズに、酒場の客たちは沈黙し事態の行く末を見守ったが、静かに見守れるような客たちではない。
すぐに大いに盛り上がり、拍手と歓声が沸き起こった。
店主もその勢いに乗り、「今日は全員、飲み物はタダだ!」と叫び、さらに場の雰囲気を高めた。
客たちは大喜びし、祝杯をあげて二人を祝福した。

こうしてクラリスが答えを出さないまま祝福ムードになってしまった。

一方、ベアトリスはこの急展開に戸惑い、何が起こっているのか理解しようとしながらも、酒を飲んで気を紛らわせようとした。
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