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「久しぶりね、クラリス。よく来てくれたわ。……最近何かあったの? 顔色が少し悪いみたいだけど」
クラリスは無理に微笑み返そうとしたが、心の重さがそれを阻んだ。
わざわざ友人のベアトリスを訪ねたのは夫のケネスに知られることなく相談を持ち掛けたかったからだ。
「ベアトリス、話を聞いて欲しいの」
「わかったわ。まずは座って。紅茶を用意させるわ。気持ちを落ち着かせてから話してちょうだい」
「ええ」
二人はソファに腰を下ろした。
クラリスの顔色や表情からも深刻な相談なのだろうとベアトリスは想像した。
しばらく沈黙が続き、使用人が温かい紅茶を運び入れ、静かに退出した。
二人は紅茶を口にし、クラリスは深いため息をついて話し始めた。
「最近、ケネスの行動がどうにも怪しいの。夜遅くまで帰ってこないことが多くなって、仕事だとしか言わないの。そんなに忙しいはずないのに。どう考えても言い訳だとしか思えないのよ」
「それは気になるわね。他に何か疑わしいことはあるの?」
「彼から知らない香水の香りがするようになったの。私の知らない香り。以前は私が選んだ香りを使っていたのに、最近は全く違う匂いがするの。それに、彼のポケットから見知らぬ女性もののハンカチが出てきたの。ルイーザのイニシャルが刺繍されていたわ」
「ルイーザ? まさか、あのルイーザのこと?」
「そうだと思うけど……」
クラリスは悲しそうに頷いた。
ただイニシャルが一致しているだけでは断定できないが、怪しいと思えば怪しいとしか思えなくなっていた。
ルイーザはかつてケネスに好意を隠さなかった相手であり、クラリスが苦労して追い払ったことがあった。
「それにケネスの書斎で見つけた手紙も怪しいの。ルイーザからの手紙で、読んでいて恥ずかしくなるくらいの愛情が綴られていたわ」
「酷いわね……。それにしても怪しい物がよくもこれだけ出てくるものよね。ケネスが浮気している可能性がは高いとしか思えないわ」
「やっぱりそうなのね……。でもどうすればいいのかわからないの。浮気されるくらいだから私のことはもう愛していないのかも……」
ベアトリスは優しく微笑み、クラリスを安心させるよう優しく伝える。
「まずは冷静になって。怪しい証拠はたくさんあったけどまだ決定的な証拠はないでしょ? 浮気の現場を押さえれば確実よ。それに浮気していないことが明らかになるかもしれないし」
「そうね。ありがとう、ベアトリス。私は真実を知るために頑張るわ」
「困ったらいつでも相談に乗るからね。一人で抱え込まないで」
「本当にありがとう、ベアトリス」
クラリスは少しだけ希望を抱けるようになった。
一方でベアトリスは疑問だらけだった。
こうも怪しい証拠がたくさんあることに何らかの意図を感じた。
まるで、あえて浮気を疑わせるような――。
ベアトリスはクラリスにも知らせずに、密かに真実を調べようと決意した。
クラリスは無理に微笑み返そうとしたが、心の重さがそれを阻んだ。
わざわざ友人のベアトリスを訪ねたのは夫のケネスに知られることなく相談を持ち掛けたかったからだ。
「ベアトリス、話を聞いて欲しいの」
「わかったわ。まずは座って。紅茶を用意させるわ。気持ちを落ち着かせてから話してちょうだい」
「ええ」
二人はソファに腰を下ろした。
クラリスの顔色や表情からも深刻な相談なのだろうとベアトリスは想像した。
しばらく沈黙が続き、使用人が温かい紅茶を運び入れ、静かに退出した。
二人は紅茶を口にし、クラリスは深いため息をついて話し始めた。
「最近、ケネスの行動がどうにも怪しいの。夜遅くまで帰ってこないことが多くなって、仕事だとしか言わないの。そんなに忙しいはずないのに。どう考えても言い訳だとしか思えないのよ」
「それは気になるわね。他に何か疑わしいことはあるの?」
「彼から知らない香水の香りがするようになったの。私の知らない香り。以前は私が選んだ香りを使っていたのに、最近は全く違う匂いがするの。それに、彼のポケットから見知らぬ女性もののハンカチが出てきたの。ルイーザのイニシャルが刺繍されていたわ」
「ルイーザ? まさか、あのルイーザのこと?」
「そうだと思うけど……」
クラリスは悲しそうに頷いた。
ただイニシャルが一致しているだけでは断定できないが、怪しいと思えば怪しいとしか思えなくなっていた。
ルイーザはかつてケネスに好意を隠さなかった相手であり、クラリスが苦労して追い払ったことがあった。
「それにケネスの書斎で見つけた手紙も怪しいの。ルイーザからの手紙で、読んでいて恥ずかしくなるくらいの愛情が綴られていたわ」
「酷いわね……。それにしても怪しい物がよくもこれだけ出てくるものよね。ケネスが浮気している可能性がは高いとしか思えないわ」
「やっぱりそうなのね……。でもどうすればいいのかわからないの。浮気されるくらいだから私のことはもう愛していないのかも……」
ベアトリスは優しく微笑み、クラリスを安心させるよう優しく伝える。
「まずは冷静になって。怪しい証拠はたくさんあったけどまだ決定的な証拠はないでしょ? 浮気の現場を押さえれば確実よ。それに浮気していないことが明らかになるかもしれないし」
「そうね。ありがとう、ベアトリス。私は真実を知るために頑張るわ」
「困ったらいつでも相談に乗るからね。一人で抱え込まないで」
「本当にありがとう、ベアトリス」
クラリスは少しだけ希望を抱けるようになった。
一方でベアトリスは疑問だらけだった。
こうも怪しい証拠がたくさんあることに何らかの意図を感じた。
まるで、あえて浮気を疑わせるような――。
ベアトリスはクラリスにも知らせずに、密かに真実を調べようと決意した。
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