【完結】愛されないのは政略結婚だったから、ではありませんでした

紫崎 藍華

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8話

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ドワイトは父親の前に立っていた。
二人の間には重苦しい空気が漂っていた。

「ドワイトよ、当家は破産することがほぼ確定した。後は時間の問題だろう」
「申し訳ありませんでした」

ドワイトは深く頭を下げた。

「今になって謝罪したところでどうにもならないだろう? 無駄なことはやめたまえ」
「……はい」

ドワイトは頭を下げたまま動かない。
深く反省していることをアピールするためだった。
父親の言葉通りに受け止めてしまえば更なる叱責が待っているとの判断によるものだ。

「それで……だ。お前、何か策はあるのか?」
「……一つだけ、考えがあります」
「言ってみろ」

ドワイトは頭を上げると、父親に自分の考えを伝えた。
それを聞いた父親は顔を引きつらせる。

「正気か? いや、確かにそれなら当家は存続できるだろう。名誉は失われるが……」
「これしか方法はないと思います」

ドワイトは覚悟を決めた表情で父親を見る。

父親はしばらく悩んでいたが、やがて決断した。

「……わかった。お前に任せる」
「ありがとうございます」

ドワイトは再び頭を下げた。
そしてドワイトは部屋を出ようとするが、その背中へ父親が声をかける。

「ドワイトよ、悪くない責任の取り方だと思う。せいぜい役割を全うしてくれ」
「……はい」

ドワイトは小さく返事をすると、そのまま部屋を後にした。
そして向かったのはブリジットの家だった。



「申し訳ないことをした! どうか許してほしい! せめて破産だけは避けたいんだ!」

ブリジットの家の前でドワイトは土下座した。
何事かと周囲の注目を集めたが、彼は土下座も謝罪もやめなかった。

こうなると困るのはブリジットのほうだった。
家の前でそのようなことをされるのは迷惑でしかない。

仕方なくブリジットが対応することになった。

「何をしているのですか?」
「俺が悪かった! 許してくれ、ブリジット!」
「迷惑ですからやめてください」
「このままでは当家は破産してしまう! どうか許してくれ!」

ブリジットはドワイトの意図を察した。
迷惑行為をやめてほしければ破産しないようにしろという脅しのようなものだ。
彼女は素早く頭の中で計算する。
このまま迷惑行為を続けられる場合と破産させないために僅かな金銭を与える場合だ。

考えるまでもない問題だった。

「いいでしょう。破産しない程度には援助します。ですからそのような行為は今後一切やめてください」
「助かる!」



こうしてドワイトは破産を免れた。
その代償として情けない行為が国中に広まってしまった。
貴族も平民も分け隔てなくドワイトの行為を嘲笑った。
浮気したことも、土下座で謝罪したことも、僅かな金銭と引き換えに名誉を失ったことも。

確かにドワイトの家は破産を免れた。
だがそれは名誉を失い信頼を失墜させるものであり、そのような家に嫁ぎたいという人がいなくなった。

ドワイトの秘策により破産こそ免れたものの、次は後継者問題が生じた。

結局一家が破滅する結果が少しばかり先送りになっただけだった。
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