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結婚し初夜も済ませた後、夫のドワイトはベッドに腰かけ、妻のブリジットに背を向けたまま告げた。

「この結婚は政略結婚だったから反対はできなかった。ブリジットだってそうだろう?」

ドワイトはブリジットに無慈悲に告げた。
彼の中ではそういった考えだったが、ブリジットは違っていた。
彼女にとっては政略結婚であろうとも相手を大切にする意志があった。

「私はそうとは思いません。私はドワイト様を大切な存在だと考えています」
「そんな建前は言わなくていい。本音はどうなんだ? 本当は俺となんて結婚したくなかったのだろう?」
「いえ、そのようなことはありません」

ドワイトは振り返りブリジットを見る。
その視線には愛情も優しさもない。

ブリジットは恐ろしさを覚え目を逸らした。

「本当にそうなのか? ならどうして俺から目を逸らしているんだ? ただ正直に話してくれればいい。本当は嫌だったのだろう?」
「違います。どうか落ち着いてください」
「ブリジットが答えないからこうなったんだ。少しは反省しろ」
「はい……」

語気を強めたドワイトにブリジットはますます恐ろしさを覚え、ただ「はい」と返事をするだけだった。
だがこのままではいけないと思い、どうにか気持ちを伝えなければならないと考えた。

「ドワイト様」
「何だ?」

ドワイトは答えるものの、目は鋭いままだった。

「あの……」

ブリジットは怯えながら、言おうとした。
しかし何も言うことができない。
何か言おうものならドワイトが不機嫌になり言葉を荒げるのではないかという恐れを抱いてしまったのだ。

「お前も結婚が嫌だったんだな?」
「……はい」
「そうか、やっぱり嫌だったんだな。それならそうと言ってくれれば良かったんだ。俺だって結婚したくなかったんだ。でも父上がどうしてもと言うから仕方なく結婚したんだ。それなのにブリジットは俺に対して、そんな態度を取るのだな。まあいい、これでお互いに愛のない結婚だということが明らかになった」
「あ、あの……」

ブリジットは否定しようとしたが、やはり言葉が続かない。
彼女のそのような様子はドワイトを怒らせるだけだった。

「まだ何かあるのか?」
「い、いえ……。ありません……」
「そうか。それなら俺の妻として今すべきことは分かっているよな?」
「……はい」

ブリジットは諦め頷いた。
彼はきっとお互いに干渉せず、邪魔にならない関係を望んでいるのだと察した。
本当にそれを望んでいるのか訊こうものなら彼が怒るに決まっている。
ブリジットはやはり何も言えず何もできなかった。

だがドワイトはそれで満足だった。

「なら良かった。今日はもう寝る」

彼はブリジットを一瞥もせずに部屋から出ていった。
結婚したとはいえ寝室を同じにはしないということだとブリジットは理解した。

残されたのは静寂とブリジットだけだった。
愛情もなければドワイトもいない。

「こんなことになるなんて……」

ブリジットは夢も希望も何もかもが打ち砕かれ涙が溢れた。
ベッドに横たわり、どうしてこうなってしまったのか、これから自分はどうしたらいいのかと悩んだ。
しかし良い考えは思い浮かばない。
思い浮かぶのは悲観的な未来ばかりだった。

「どうしてこうなってしまったの……?」

そのつぶやきに答えはなかった。
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