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5話

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ジョアンナはエルシーに会いに来ており、二人は雑談に興じていた。

話題が社交界の噂になった。

「ジョアンナは知ってる? リンウッドとマーニーの噂、ますますひどくなっているわね」
「そうみたいね。当然の結果だと思うけど。あの二人にはお似合いの結果よ」

二人は控えめに笑い、そして続ける。

「あんな評判の悪い二人が一緒になるなんて喜劇のようだわ。リンウッドは自分の行動がどれだけ馬鹿げているか、分かっていないのかしら?」
「そうね。自覚があったら相当なものよ。きっと都合の悪いことなんて考えないのでしょうね。そもそもエルシーに婚約破棄したことが信じられないわ」
「でも婚約破棄されて良かったと思うの。私は彼の何を信じていたのか、今になると疑問だわ」
「最初からマーニーと婚約していれば良かったのにね」
「本当にそう思うわ」

エルシーは少し疲れたような表情で答えた。

ジョアンナはエルシーのためにも何かすべきではないかと考え、閃き、唐突に言った。

「そうだわ、エルシー。せっかくだからリンウッドに直接会って彼の様子を見てくるわ」
「ちょ、ちょっと、ジョアンナ。本気で言ってるの?! 余計なトラブルに巻き込まれるかもしれないわよ?! 考え直して!」

しかしこうと決めたジョアンナに説得は通用しない。
彼女はにっこりと微笑んだ。

「興味が湧いてきたのよ。私を止めることは誰にもできないわ」

エルシーはため息をつき、肩をすくめた。

「気をつけてね」
「大丈夫よ、エルシー。様子を見たら教えてあげるから。楽しみに待っていて」

エルシーは一抹の不安を抱えながらも、友人の行動を見守ることにした。



ジョアンナはリンウッドをカフェへ呼び出し待っていた。

しばらくしてリンウッドが現れた。
彼は少し疲れた様子であり、ジョアンナは軽く微笑んで彼を迎えた。

「リンウッド、来てくれてありがとう」
「何の用だ、ジョアンナ?」

リンウッドは警戒心を解かない。
そもそもジョアンナはエルシーの友人であり、エルシーに婚約破棄したリンウッドは非難されるのではないかと考えていた。
だがもしかしたら実は好意を抱いていて愛の告白をされるのではないか、という期待もあった。

「リンウッド、あなたは自分の評判の悪さを自覚しているの?」
「何を言ってるんだ、ジョアンナ。そんなことを言うためにわざわざ俺を呼び出したのか?」
「そうよ。あなたがどれだけ多くの人に迷惑をかけているか自覚しているのか気になったの」

しかし、リンウッドはジョアンナの想像を超える反応を示した。

「そうか……。心配をかけてしまってすまない。だが安心してくれ。ジョアンナのために反省するよ」
「私の……ため……?」

どうして急にそうなるのか、ジョアンナには理解できなかった。

「俺を愛しているんだろう? だから他人の噂が気になった。俺のために心配してくれてありがとう。ジョアンナの気持ちは伝わったよ」
「ま、まって! そんなことないわよ! 誤解よ! 私はあなたを愛してなんかいないわ! 神に誓ってもいいわよ! あなたを愛することはあり得ないわ!!」

そこまで強く否定したことでリンウッドも早とちりだと理解した。
だが期待が裏切られたことで不機嫌になった。

「エルシーに頼まれて何か訊きに呼び出したのか?」
「頼まれてはいないわ。私が個人的に気になっただけよ」
「そんなことを言っても信用できるか。あいつは俺を貶めたいだけなんだろう」

今度はすっかり被害妄想を拗らせたリンウッドだった。

ジョアンナは深いため息をつき、肩を落とした。

「リンウッドに話が通じないことだけは理解できたわ。ごめんなさいね、時間を取らせてしまって」

ジョアンナは逃げるようにカフェを後にした。
これ以上リンウッドに関わると何が起きるか分からない恐怖があった。

「私が間違っていたわ。彼に関わらないほうが良かったわ……」
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