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4話

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貴族たちが集う社交の場では、カトリーナの噂が秘かに広まっていた。
だがその詳細は明らかではない。

参加者の女性たちが噂話をしていた。

「彼女のこと、聞いた?」
「最近噂のカトリーナのこと?」
「そう、それで彼女は面白い人らしいけど、どういった人なのか知ってる?」
「知らないわ。具体的なことは聞こえてこないもの。それに会ったこともないし」
「それなのよ。社交の場にも顔を出さないみたいだし、どうして噂が広まっているか分からないわ」
「謎ね。謎だから噂が広まっているのかもしれないわね」
「それはあるかもしれないわね」

このように詳細は広まっていないが面白いということだけが広まっていた。
謎だから人々は興味を引かれ関心を抱くようになった。



また別のパーティーの場でもカトリーナのことは噂されていた。
何しろ謎が多いので簡単には興味が失われなかったのだ。
その彼女の新たなニュースが飛び込めば人々も盛り上がるは必然だ。

一人の令嬢が興奮した声で語りかけた。

「聞いた? 噂のカトリーナがティルソンと婚約したらしいわ」
「本当なの? ティルソン様は確かヘレン様と婚約していたはずだけど?」
「婚約したってことはヘレンと別れたに決まっているわ」
「そうだけど……。そんなに簡単に別れられるの?」

令嬢の疑問も当然だった。
簡単に婚約を解消できるなら婚約の意味がない。
常識的な人であれば適切な理由もなく婚約を解消すれば信用を失うことが理解できる。

「きっと何かあったのよ。それがカトリーナの面白いという噂と結びつくのよ!」
「な、なんですって?!」
「勝手な想像だけどね。でもこれでまた噂も盛り上がるでしょうね」
「もう! 信じたじゃない!」

こうして話題になり盛り上がることもあった。



また別の場所、別の人も二人の婚約のことを話題にしていた。

「ティルソンがカトリーナに心を奪われたのは、彼女が面白い人だからに決まっているわ。どう面白いのかは知らないけど」
「相変わらず具体的なことは分からないのね。これから明らかになるのかしら?」
「そうに決まっているわ! そうでないと納得できないもの。これだけ話を引っ張っておいてつまらない人だったら許さないわ!」
「落ち着いて。でも気持ちは分かるわ。わたしだって期待しているもの」

貴婦人の興味はまだまだ失われていない。
むしろ真相を知ろうと興味は増すばかりだった。

社交の場はティルソンとカトリーナの噂で満ち溢れ、華やかな世界に彩りを与えた。



噂はやがてティルソンとカトリーナのもとへも伝わってきた。

「わたしたちの婚約について、何が起こっているの?」

カトリーナは疑問を口にしたがティルソンは真剣に受け止めなかった。

「どうしたんだ? 別に問題はないと思うが……」
「ティルソンは知らないの? わたしたちの婚約が噂になっているのよ。注目される理由が分からないの」
「そうか……。でも悪いことではないよな?」
「そうだけど……納得できないのよ」
「気にしすぎだ。別に悪い噂ではないのだろう? なら問題ないだろう」
「……そうね」

カトリーナは渋々とティルソンの意見を受け入れた。
彼の楽観的な態度に不安を覚えたが、婚約者のことを信じなくてどうすると考え、不安を振り払った。

後になりティルソンは一人考えた。
もし何かするとしたらヘレンに決まっていると決めつけた。

「今度会ったら問い質してもいいかもな」

カトリーナとの幸せを壊そうとするならティルソンはヘレンであっても容赦しないと心に決めた。
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