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もう一つの落とし穴1
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その後、早速足立さんから次のプロジェクトに関する指示がバンバン飛んできた。
これは、もしかしたら久々の残業コースかもしれない。
変に心配して迎えに来た羽立くんが、矢吹と再会したら困るので、トイレに立った隙に「残業で何時に帰れるか分かりません。絶対迎えに来ないでね」と連絡を入れると、「分かりました」と秒で返事が届いた。
妙にすんなり承諾したなと思いつつも、席に戻ると追加の指示がメールで届いていたので、仕事に没頭せざるを得なかった。
足立さんの辞書には『働き方改革』なんて言葉は載っておらず、今日の分のタスクを終えると、予想通り定時を軽く2時間超えていた。
「残業代、きっちりもらえよ」
私が席を立つと、足立さんがPCの画面から目を離さずに声をかけてきた。
「はい、お先に失礼します。足立さんもほどほどで帰ってくださいね」
「おー」
本当に容赦なく仕事を投げてくるけど、その倍以上の仕事をこなすんだよね、足立さん。
私より先に帰るの見たことないし。
正に先輩の鏡というか。
だからこっちもついつい頑張っちゃうんだよな。
打刻を終え、疲れた身体を引きずるように歩き、エレベーターのボタンを押した。
壁に凭れて扉が開くのをボーッと待っていた私は、ドアが開くと同時に飛び上がりそうになった。
「あれ?常盤?お疲れー」
箱の中には、矢吹が一人で乗っていたのだ。
今まで一度も会わなかったのに、何で今日このタイミングでまた会っちゃうかな!?
「…って、こんな時間まで残ってるってことは、例のプロジェクト断れなかったのか?」
「あ、う、うん。営業の人にどうしてもって脅されて、断れなくて…」
「脅されたって、うけるんだけど」
なんとか平静を装って返事はできた。
だけど、頭の中は大パニック。
もし、万が一羽立くんが迎えに来てたらー!?
いきなり再会させちゃうことになる。
「全然変わってないんだな、そういうところ」
「うん?うん。自分でも変えなきゃとは思ってるんだけどね」
「変える必要なんてないよ」
「え?」
「俺、常盤のそういうとこ好きだもん」
「アハハ。ありがとう。なんか、自分の嫌いな部分を人に肯定してもらえるって、いいもんだね」
羽立くんにはいつも『お人好し過ぎる』と怒られてばかりだから、余計新鮮だ。
「…常盤の婚約者って相当なツワモノなんだろうな」
「ん?何か言った?」
「いや、何も」
…なんて、こんな悠長なやりとりしてる場合じゃないことを思い出させるかのように、エレベーターが一階に着いた。
矢吹より一歩でも早く会社を出て、羽立くんがいないか確認しなければ。
「矢吹も気さくで優しいところ、全然変わらないね!じゃ、私急ぐから!!」
「…あ、常盤待って!連絡先教えて。これから何かと必要になると思うから」
「そ、そうだね」
急いでカバンからスマホを取り出す。
羽立くんからの連絡は、何も来ていない。
でも実は、今日もうそこまで来てたりして…とヒヤヒヤしながら、矢吹と連絡先を交換した。
転がるように会社を出て、辺りを見回しても幸いそれらしき車は停まっていないようだ。
心から安堵のため息を吐いて、早足で帰路についた。
これは、もしかしたら久々の残業コースかもしれない。
変に心配して迎えに来た羽立くんが、矢吹と再会したら困るので、トイレに立った隙に「残業で何時に帰れるか分かりません。絶対迎えに来ないでね」と連絡を入れると、「分かりました」と秒で返事が届いた。
妙にすんなり承諾したなと思いつつも、席に戻ると追加の指示がメールで届いていたので、仕事に没頭せざるを得なかった。
足立さんの辞書には『働き方改革』なんて言葉は載っておらず、今日の分のタスクを終えると、予想通り定時を軽く2時間超えていた。
「残業代、きっちりもらえよ」
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「はい、お先に失礼します。足立さんもほどほどで帰ってくださいね」
「おー」
本当に容赦なく仕事を投げてくるけど、その倍以上の仕事をこなすんだよね、足立さん。
私より先に帰るの見たことないし。
正に先輩の鏡というか。
だからこっちもついつい頑張っちゃうんだよな。
打刻を終え、疲れた身体を引きずるように歩き、エレベーターのボタンを押した。
壁に凭れて扉が開くのをボーッと待っていた私は、ドアが開くと同時に飛び上がりそうになった。
「あれ?常盤?お疲れー」
箱の中には、矢吹が一人で乗っていたのだ。
今まで一度も会わなかったのに、何で今日このタイミングでまた会っちゃうかな!?
「…って、こんな時間まで残ってるってことは、例のプロジェクト断れなかったのか?」
「あ、う、うん。営業の人にどうしてもって脅されて、断れなくて…」
「脅されたって、うけるんだけど」
なんとか平静を装って返事はできた。
だけど、頭の中は大パニック。
もし、万が一羽立くんが迎えに来てたらー!?
いきなり再会させちゃうことになる。
「全然変わってないんだな、そういうところ」
「うん?うん。自分でも変えなきゃとは思ってるんだけどね」
「変える必要なんてないよ」
「え?」
「俺、常盤のそういうとこ好きだもん」
「アハハ。ありがとう。なんか、自分の嫌いな部分を人に肯定してもらえるって、いいもんだね」
羽立くんにはいつも『お人好し過ぎる』と怒られてばかりだから、余計新鮮だ。
「…常盤の婚約者って相当なツワモノなんだろうな」
「ん?何か言った?」
「いや、何も」
…なんて、こんな悠長なやりとりしてる場合じゃないことを思い出させるかのように、エレベーターが一階に着いた。
矢吹より一歩でも早く会社を出て、羽立くんがいないか確認しなければ。
「矢吹も気さくで優しいところ、全然変わらないね!じゃ、私急ぐから!!」
「…あ、常盤待って!連絡先教えて。これから何かと必要になると思うから」
「そ、そうだね」
急いでカバンからスマホを取り出す。
羽立くんからの連絡は、何も来ていない。
でも実は、今日もうそこまで来てたりして…とヒヤヒヤしながら、矢吹と連絡先を交換した。
転がるように会社を出て、辺りを見回しても幸いそれらしき車は停まっていないようだ。
心から安堵のため息を吐いて、早足で帰路についた。
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