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不毛な戦い3
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「じゃあ、今回の結婚って偽装結婚なの!?」
お皿に取り分けたペスカトーレをフォークにクルクル巻きつけながら、円香が声を上げた。
「そうなんらよぉ…親の借金肩代わりしてもらうのを条件にぃ、形だけの結婚のはずだったんらよおぉ」
あれからビールを2杯、更に円香に勧められてワインを2杯空にした私は、すっかり出来上がってしまっていた。
「『だった』って、どういうこと?」
「…ごめん。ちょっとお手洗い」
フラつきつつも無事に用を足し終え、席に戻ろうとすると、私の前に一組の夫婦が仲睦まじく…いや、イチャイチャしながら歩いていた。
「今日のお店、完全個室じゃないから圧迫感は少ないのに、プライバシーもちゃんと守られててて、ほんと、冬馬の設計って毎回見事だわ。お料理も美味しかったし、来て良かった」
女性のセリフから察するに、隣の男性がこのお店を作ったらしい。
後ろ姿だけで、羽立くんとは別種類の絶対的なイケメンオーラが漂っている…気がする。
こっそり観察していると、さっきまで腰に回されていたその男の手が、異常な程ナチュラルに下に動き、妖艶な手付きで張りのあるヒップラインを撫でた。
「ソレ、完全に誘ってるだろ」
「ちょっ!何で設計を褒めただけでそうなるのよ!?やめてよ!こんなところで」
「うるせー。言っとくけど、家まで保たねーからな」
男性が、女性を急かすように歩調を速めると、二人はあっという間にレジのある方に通路を曲がって消えた。
家まで保たないって…車でするのかな。
いいなぁ…。
普通の仲良し夫婦。
私と羽立くんがあんな風になる日なんて、きっと100年経っても来ない。
暗い気持ちで円香の待つ席に戻ると、さっき空にしたはずのグラスに、紫色の液体がなみなみと注がれていた。
「おかえりー。ワイン頼んでおいたいから、早く続き聞かせて!」
「えと…どこまで話したんらっけ?」
「『形だけの結婚のはずだった』ってところまで!」
「あーーーー。あのねぇ、私ね、相手のこと、ずっと昔から好きらったんらわぁ」
「え…」
「でもねぇ、向こうは私のことなんて恋愛対象じゃないらしくてぇ」
「なんだ!じゃあやっぱり身体の関係はナシなんだ?」
私の身を案じてくれていたのか、パッと円香の顔が明るくなった。
「それが…セックスしてみようって言われて」
「はぁっ!?何だそれ!?数百万ぽっちの端金で私の奏音ちゃんを法的に妻にするだけでは飽き足らず、愛のないセックス強要するとかありえないでしょ!?」
普段女の子らしくて可愛らしい円香が、私のためにこんなに怒ってくれるなんて…。
ちょっと酔っているせいだろうけど、いい同期に恵まれたわ、と目頭が熱くなる。
「で?で??まさかシちゃったの!?」
「してないっ!してないしてないぃっ!!」
思い切り左右に頭を振って強く否定したのは失敗だったかも。
益々酔いが回ってきた。
「…でも…勢いに任せて好きって言っちゃって」
「何でそうなるのよ!?男はみんなケダモノなのよ?カラダ狙われてる相手に好きなんて言ったら、つけこまれて好き放題されちゃうじゃない!!」
「は、羽立くんはそんなことしないもん!!でも…でも好きって言ったことに対しては何も言ってくれなくて…」
「あ!本気になられるとウザいからとか言われて、冷たくされてるんだ?」
「そーじゃなくてぇ、逆に前よりもっと優しくするんらよおぉー!!」
テーブルに突っ伏し、世界がふわふわ、ぐるぐるし始める中で、両手がそっと温かいものに包まれる。
ふと目をやると、綺麗にネイルの施された、円香の小さく柔らかい両手が、私の両手を包んでいた。
「奏音ちゃん、まだ籍入れてないんでしょ?」
私を見つめる円香の瞳は真剣そのものだ。
ダウンライトの光を受けて、強い光を放っている。
「そんなわけ分かんない男との結婚なんてやめて、家においでよ」
「いや、そういうわけには…円香にも迷惑かかるし」
「私はいいの!だって、私は、入社したときから奏音ちゃんのことがー」
お皿に取り分けたペスカトーレをフォークにクルクル巻きつけながら、円香が声を上げた。
「そうなんらよぉ…親の借金肩代わりしてもらうのを条件にぃ、形だけの結婚のはずだったんらよおぉ」
あれからビールを2杯、更に円香に勧められてワインを2杯空にした私は、すっかり出来上がってしまっていた。
「『だった』って、どういうこと?」
「…ごめん。ちょっとお手洗い」
フラつきつつも無事に用を足し終え、席に戻ろうとすると、私の前に一組の夫婦が仲睦まじく…いや、イチャイチャしながら歩いていた。
「今日のお店、完全個室じゃないから圧迫感は少ないのに、プライバシーもちゃんと守られててて、ほんと、冬馬の設計って毎回見事だわ。お料理も美味しかったし、来て良かった」
女性のセリフから察するに、隣の男性がこのお店を作ったらしい。
後ろ姿だけで、羽立くんとは別種類の絶対的なイケメンオーラが漂っている…気がする。
こっそり観察していると、さっきまで腰に回されていたその男の手が、異常な程ナチュラルに下に動き、妖艶な手付きで張りのあるヒップラインを撫でた。
「ソレ、完全に誘ってるだろ」
「ちょっ!何で設計を褒めただけでそうなるのよ!?やめてよ!こんなところで」
「うるせー。言っとくけど、家まで保たねーからな」
男性が、女性を急かすように歩調を速めると、二人はあっという間にレジのある方に通路を曲がって消えた。
家まで保たないって…車でするのかな。
いいなぁ…。
普通の仲良し夫婦。
私と羽立くんがあんな風になる日なんて、きっと100年経っても来ない。
暗い気持ちで円香の待つ席に戻ると、さっき空にしたはずのグラスに、紫色の液体がなみなみと注がれていた。
「おかえりー。ワイン頼んでおいたいから、早く続き聞かせて!」
「えと…どこまで話したんらっけ?」
「『形だけの結婚のはずだった』ってところまで!」
「あーーーー。あのねぇ、私ね、相手のこと、ずっと昔から好きらったんらわぁ」
「え…」
「でもねぇ、向こうは私のことなんて恋愛対象じゃないらしくてぇ」
「なんだ!じゃあやっぱり身体の関係はナシなんだ?」
私の身を案じてくれていたのか、パッと円香の顔が明るくなった。
「それが…セックスしてみようって言われて」
「はぁっ!?何だそれ!?数百万ぽっちの端金で私の奏音ちゃんを法的に妻にするだけでは飽き足らず、愛のないセックス強要するとかありえないでしょ!?」
普段女の子らしくて可愛らしい円香が、私のためにこんなに怒ってくれるなんて…。
ちょっと酔っているせいだろうけど、いい同期に恵まれたわ、と目頭が熱くなる。
「で?で??まさかシちゃったの!?」
「してないっ!してないしてないぃっ!!」
思い切り左右に頭を振って強く否定したのは失敗だったかも。
益々酔いが回ってきた。
「…でも…勢いに任せて好きって言っちゃって」
「何でそうなるのよ!?男はみんなケダモノなのよ?カラダ狙われてる相手に好きなんて言ったら、つけこまれて好き放題されちゃうじゃない!!」
「は、羽立くんはそんなことしないもん!!でも…でも好きって言ったことに対しては何も言ってくれなくて…」
「あ!本気になられるとウザいからとか言われて、冷たくされてるんだ?」
「そーじゃなくてぇ、逆に前よりもっと優しくするんらよおぉー!!」
テーブルに突っ伏し、世界がふわふわ、ぐるぐるし始める中で、両手がそっと温かいものに包まれる。
ふと目をやると、綺麗にネイルの施された、円香の小さく柔らかい両手が、私の両手を包んでいた。
「奏音ちゃん、まだ籍入れてないんでしょ?」
私を見つめる円香の瞳は真剣そのものだ。
ダウンライトの光を受けて、強い光を放っている。
「そんなわけ分かんない男との結婚なんてやめて、家においでよ」
「いや、そういうわけには…円香にも迷惑かかるし」
「私はいいの!だって、私は、入社したときから奏音ちゃんのことがー」
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