運命の落とし穴

恩田璃星

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秘密の理科実験室1

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 頼られるのも、頑張るのも、嫌いじゃない。

 でも、ときどき、全部放り出して逃げたくなる。

 そんなとき、いつも逃げ込むのが、ここ、理科準備室。

 滅多に誰も来ない、私だけの秘密の場所。

 生徒会の今年度決算と、次年度予算の作りの下準備、おまけにもう少しで私たち現生徒会の役員は引退だから、引き継ぎ書も作らないといけない。

 受験の夏が目前なのに、志望校はC判定。

 私立の指定校なら、きっも余裕で推薦をもらえるはずだけど、いかんせん学費が高過ぎる。

 私なんて、大学に行かせてもらえるだけでも有難いんだ。

 自力で成績を上げるしかない。

 それら全てのプレッシャーを、家から持って来たクッションに、顔を押し付けて、

 「あーーーーーーーっ!!」

と、一吠えして発散させ、昼休みの校庭に目を凝らした。

 おー、やってるやってる。

 私が理解準備室ここに来るのには、もう一つ理由がある。

 クラスメイトの矢吹やぶき海斗かいとが、汗だくで他の男子と一緒にサッカーをしているのを、ここからこっそり眺めるためだ。

「あ、こけた。バカ…」

 とか言いつつ、口元が緩んでしまっているのは、自分でも分かっている。

 矢吹と私の関係は、ただのクラスメイトで、それ以上でもそれ以下でもない。

 私の一方的な片想い。

 矢吹のことを好きになったきっかけは、去年のある冬の日の放課後。

 担任から頼まれて断りきれなかった資料の作成を一人残ってしていたら、学校に忘れ物をした矢吹が現れ、手伝ってくれたという、我ながらごくごく単純なもので。

 矢吹は元々人懐っこくて気さくな性格だから、何の気なしに手を貸してくれただけなんだろうけど。

 その日から少しずつ話す機会が増え、たまに私が先生から押し付けられた雑務を手伝ってくれるようになり、気づけば完全に好きになっていた。

 告白は、できない。

 だってー

 ほら、来た。

 グラウンドの端にスポドリを持って腰掛ける、小柄でロングヘアの女子。

 そう、矢吹には中学の時から付き合っている彼女がいる。

 それも私とは正反対の、容姿も性格も、いかにも女の子らしいコ。

 勝ち目なんて全くないし、挑もうとも思わない。

 私は、矢吹の、彼女を大切にするところも好きなんだから。

 こうして今日も誰にもバレずに、思う存分矢吹のことを眺められる。

 はずだった。

 『彼』が現れるまでは。

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