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同姓同名
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瑞希の余計な一言に、高嶺氏が激しく動揺したように見えた。
例えるなら、取り繕っていた仮面が剥がれたような。
でもそれは、ほんの一瞬のこと。
直後のとんでもない提案のせいで、こちらの方が仰天させられた。
「…お詫びと言っては何ですけど、私もこちらに登録させていただいても?」
シンクロした瑞希と私の「「えっ!?」」という声は、字面こそ同じであれ、こめられた感情は全く逆だった。
ないないないない!
Love Birdsに登録なんて絶対あり得ない!!
正直、まだこの人が彼かどうかについての確証はないけれど、すごく嫌な予感がする。
「ひ、必要ないですよね!?」
「ちょっと!何勝手なこと言ってるのよ!?」
私にしては珍しく、瑞希が止めるのを無視してでも必死に食い下がる。
「だって!弁護士さんですし!!全然女性慣れしてない風には見えませんし!!!」
「そんなことないですよ。学生時代は司法試験に受かるために勉強漬けでしたし、弁護士になったらなったで業務がかなり多忙で、全然出会いもありませんし」
嘘だ!
絶対嘘!
昨夜私を立ち上がらせたときの動きに、私がこれまでコーチングしてきたお客様たちのようなぎこちなさは微塵も感じられなかった。
なんとかして止めないとと思えば思うほど、高嶺氏の饒舌さに拍車がかかり、瑞希の目には輝きが増していく。
「それに、僕の周り、同じ様な境遇の人がいっぱいいるので、芋づる式にご紹介できると思いますよ」
相手にとってこの上ない殺し文句を繰り出してくるあたり、間違いなくLove Birdsに登録する必要なんてないはず。
なのに結局、瑞希と高嶺氏は二人揃って登録ブースへと消えてしまった。
最後まで難色を示していた私に妨害されないよう、ご丁寧に鍵まで掛けて。
随分と盛り上がっているらしく、時折楽しそうな笑い声が聞こえる。
と言っても、ほとんどが瑞希の声だけど。
どうしよう。
まさか本当に高嶺氏=彼で、私との昔のこととか話してたりしないよね?
瑞希の反応を見る(聞く)限り、それはないみたいだけど。
もうあれだ。
副社長の権限を濫用しまくって、瑞希にはバレないよう、高嶺氏のレッスンの担当にならないようにするしかない。
よし、これでいこう。
そうと決まれば締め作業はとっくに終わったし、終電もなくなっちゃうし。
もう帰ろうと立ち上がったところで、二人が出てきてしまった。
「あ、良かった。まだ居た!」
目をキラキラ…いや、ギラギラさせた瑞希が駆け寄ってきて、ガシッと私の両腕を掴んだ。
「静花には高嶺様の専属担当になってもらうから!」
ぎゃーっ!
止めて!!
彼かもしれないその男の前で、名前なんて呼ばないで!…って、今何と??
上半身を捻って、私の腕を掴んでいる瑞希ごと高嶺氏に背を向けさせ猛抗議する。
「ちょ、どういうこと!?」
「だって!静花を担当にしてくれるなら通常料金の五倍出すって言うんだもん。徳永さん含め回収しそびれた静花の担当案件分の売り上げカバーするチャンスでしょ?もう現金で登録料と今月分のレッスン料もらっちゃったし!!もちろん五倍!!!」
「だからって!規約では担当の指名はできないことになってるはずよ?特別扱いなんて、他のお客様に示しがつかないでしょうが!!」
さっきまでの自分の企ては棚に上げ、撤回させようと迫っているとー
「すみません。僕が無理にお願いしたんです」
まるで瑞希の弁護をするかのように高嶺氏が割って入ってきた。
「何せこういうところは初めてなもので、少々値が張ってもいいので、伊藤社長の一番信頼できる方にお願いしたいと」
「え、いや、あの、えっと…」
「それに、仕事柄当日でないと予約が入れられないことも多いと話したら、伊藤社長の方から専属という形を提案してもらえたので、お言葉に甘えさせてもらったんです」
どこを探しても反論の言葉を見つけられないでいると、
「と、いうことで、明日からよろしくお願いします」
半ば無理やり握手を求められ、渋々握り返すと、指先に覚えのある傷痕の感触。
思わず顔を上げ、至近距離で見るメガネの奥の瞳は、確かに忘れたくても忘れられない彼の瞳だった。
ゆっくりと手を離し、「じゃあ、また」と言ってLove Birdsを立ち去る彼ー『高嶺くん』を、私はただ呆然と見送ることしかできなかった。
例えるなら、取り繕っていた仮面が剥がれたような。
でもそれは、ほんの一瞬のこと。
直後のとんでもない提案のせいで、こちらの方が仰天させられた。
「…お詫びと言っては何ですけど、私もこちらに登録させていただいても?」
シンクロした瑞希と私の「「えっ!?」」という声は、字面こそ同じであれ、こめられた感情は全く逆だった。
ないないないない!
Love Birdsに登録なんて絶対あり得ない!!
正直、まだこの人が彼かどうかについての確証はないけれど、すごく嫌な予感がする。
「ひ、必要ないですよね!?」
「ちょっと!何勝手なこと言ってるのよ!?」
私にしては珍しく、瑞希が止めるのを無視してでも必死に食い下がる。
「だって!弁護士さんですし!!全然女性慣れしてない風には見えませんし!!!」
「そんなことないですよ。学生時代は司法試験に受かるために勉強漬けでしたし、弁護士になったらなったで業務がかなり多忙で、全然出会いもありませんし」
嘘だ!
絶対嘘!
昨夜私を立ち上がらせたときの動きに、私がこれまでコーチングしてきたお客様たちのようなぎこちなさは微塵も感じられなかった。
なんとかして止めないとと思えば思うほど、高嶺氏の饒舌さに拍車がかかり、瑞希の目には輝きが増していく。
「それに、僕の周り、同じ様な境遇の人がいっぱいいるので、芋づる式にご紹介できると思いますよ」
相手にとってこの上ない殺し文句を繰り出してくるあたり、間違いなくLove Birdsに登録する必要なんてないはず。
なのに結局、瑞希と高嶺氏は二人揃って登録ブースへと消えてしまった。
最後まで難色を示していた私に妨害されないよう、ご丁寧に鍵まで掛けて。
随分と盛り上がっているらしく、時折楽しそうな笑い声が聞こえる。
と言っても、ほとんどが瑞希の声だけど。
どうしよう。
まさか本当に高嶺氏=彼で、私との昔のこととか話してたりしないよね?
瑞希の反応を見る(聞く)限り、それはないみたいだけど。
もうあれだ。
副社長の権限を濫用しまくって、瑞希にはバレないよう、高嶺氏のレッスンの担当にならないようにするしかない。
よし、これでいこう。
そうと決まれば締め作業はとっくに終わったし、終電もなくなっちゃうし。
もう帰ろうと立ち上がったところで、二人が出てきてしまった。
「あ、良かった。まだ居た!」
目をキラキラ…いや、ギラギラさせた瑞希が駆け寄ってきて、ガシッと私の両腕を掴んだ。
「静花には高嶺様の専属担当になってもらうから!」
ぎゃーっ!
止めて!!
彼かもしれないその男の前で、名前なんて呼ばないで!…って、今何と??
上半身を捻って、私の腕を掴んでいる瑞希ごと高嶺氏に背を向けさせ猛抗議する。
「ちょ、どういうこと!?」
「だって!静花を担当にしてくれるなら通常料金の五倍出すって言うんだもん。徳永さん含め回収しそびれた静花の担当案件分の売り上げカバーするチャンスでしょ?もう現金で登録料と今月分のレッスン料もらっちゃったし!!もちろん五倍!!!」
「だからって!規約では担当の指名はできないことになってるはずよ?特別扱いなんて、他のお客様に示しがつかないでしょうが!!」
さっきまでの自分の企ては棚に上げ、撤回させようと迫っているとー
「すみません。僕が無理にお願いしたんです」
まるで瑞希の弁護をするかのように高嶺氏が割って入ってきた。
「何せこういうところは初めてなもので、少々値が張ってもいいので、伊藤社長の一番信頼できる方にお願いしたいと」
「え、いや、あの、えっと…」
「それに、仕事柄当日でないと予約が入れられないことも多いと話したら、伊藤社長の方から専属という形を提案してもらえたので、お言葉に甘えさせてもらったんです」
どこを探しても反論の言葉を見つけられないでいると、
「と、いうことで、明日からよろしくお願いします」
半ば無理やり握手を求められ、渋々握り返すと、指先に覚えのある傷痕の感触。
思わず顔を上げ、至近距離で見るメガネの奥の瞳は、確かに忘れたくても忘れられない彼の瞳だった。
ゆっくりと手を離し、「じゃあ、また」と言ってLove Birdsを立ち去る彼ー『高嶺くん』を、私はただ呆然と見送ることしかできなかった。
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