社長の×××

恩田璃星

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社長のお味噌汁 4

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「葵、おいで」

 唯人が自分の隣に座るよソファをポンポンと叩いて私を促す。
 瞬時に自分の体が緊張で硬直するのが分かった。

 さっきのキス未遂は成り行き・不意打ちだったのに加え、まだ唯人からの告白に「YES」と言っていないタイミングだったけど、今は違う。

 私たちは恋人同士だ。

 否が応でもこの先の展開を予想してしまう。

 「っ、はい」

 それでも返事をして素直に言うことをきいてしまうのは、職業病だろうか。

 三人掛けのソファなので、二人で座ればゆったりと余裕があるはずなのに、唯人が真ん中に座っているせいで右半身が触れ合ってしまう。

 ますます体を硬く縮こませて、ちびちびとコーヒーを啜った。





 予想に反して、私のカップの中のコーヒーが空になるまで唯人は動かず、黙ったままだった。

 おまけに沈黙を破った言葉が

 「そろそろ送るよ」

だったので、私はびっくりして思わず

 「え!?」

と声を上げてしまった。



 「…何か期待してた?」

 立ち上がった唯人はニヤリと意地悪く笑って私を見下ろす。

 「し、してません!!」

 座ったままだと『まだ帰りたくない』という意思表示をしているように思えて、慌てて立ち上がろうとした。

 ところが、唯人はそんな私の肩をグッと抑え、それを阻んだ。
 更に片足を私の脚の間に立て、反対側の足の膝をソファに着いて、ゆっくりと顔を寄せて来た。

 「俺はしたいよ。キスも、それ以上も」

 猫みたいに自分の額を私の額にすりすりとこすり付けながら、甘く囁く。

 それだけで、私を溶かせるくらい、甘く。

 「でも、キスしたら止められそうにないから、今日は我慢する。葵のお父さんにも早く帰すって約束しちゃったしね」

 目の前にある唯人の熱を孕んだ瞳が、残念そうに下がって、またゆっくりと私から離れて行った。




 「着いたよ、葵」

 トントンと優しく肩を叩かれて目を開けると自宅のガレージだった。

 うわっ!私、寝てた!?と焦って飛び起きる。

 「すみませんしゃ…!!」

 寝ぼけてうっかり「社長」と言いそうになってしまって、口を噤んだ。
 今は仕事中じゃなかった。
膝の上には起きた衝撃でずり落ちたと思われる唯人の上着が落ちていた。

 「せっかく早く帰したのに、お父さん帰ってないね」

 「すみません」

 「いいよ。結婚前提の交際だから、信頼して欲しくて自分から言い出したことだし。でも」

 唯人の上着を軽く畳んで手渡していた腕を、ぐっと掴んで引かれた。

 「『社長』って言ったね?」

 返事をする間もない。

 カチッとシートベルトを外す音がしたかと思うと、上背のある唯人が運手席から身を乗り出すようにして私の唇を奪った。

 飢えた獣みたいな、乱暴なキス。



 
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