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社長のお味噌汁 2
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絆も何も。
私と律を繋ぐものなんて、真田の家と一緒に住んでた年月。
強いて言えば、あくまで「家族」としての愛情くらいだ。
「…深読みし過ぎ…」
口の中で呟いた言葉でも、この至近距離だと聞こえてしまうらしい。
「じゃあもう言っていい?」
私の言葉を受けて唯人が尋ねる。
「言うって…何を?」
唯人は両手で私の頬を包み、顔を上げさせ、真っ直ぐに私の瞳を見つめた。
いつも垂れている目尻が、ほんの少し上がっているように見える。
「真田葵さん。好きです。結婚を前提に俺とお付き合いしてください」
唯人のドストレートな言葉に、一気に耳が熱くなる。
「えっ?いや、だって、さっき…」
「忘れてって言ったのは、後でちゃんと言うつもりだったのに、お父さんに鉢合わせて仕方なくフライングしちゃったから」
「え、あの。えーと」
何て答えれば良いのか、続く言葉が出て来なかった。
何か言わなきゃと焦れば焦るほど、何も出てこない。
「YESって言って?ちょっとでも俺のこと好きなら」
こんな目で懇願されて「NO」と言える女なんて居るんだろうか。
「葵…?」
焦れったそうに頬を撫でる唯人の指に、私は陥落寸前。
唯人の視線はいつの間にか私の目から唇に移っている。
「…これ以上の沈黙は賛成とみなすよ?」
ゆっくりと近づいて来る唯人の唇の赤を、熱に浮かされたように、ただぼんやりと見つめた。
私の脳は、記憶している。
彼の唇の感触を。
優しいのに、少し強引。
まるで、唯人そのものだ。
その感触まであと数ミリ。
というところで唯人が火にかけていた鍋が吹きこぼれた。
「しまった!」
唯人は慌てて火を止め、ガスコンロの天板を布巾で拭き始めた。
「せっかく良い雰囲気だったのに、残念」
ホッとする私に向かって、唯人はニヤリと笑った。
「返事は後でゆっくり聞かせて?」
「…はい」
私は火照る頬に無理矢理気付かないふりをして、ハンバーグ作りを再開した。
テーブルに、ご飯、お味噌汁、ハンバーグ、眼張の煮付け、焼き野菜サラダが並んだ。
「いただきます」
二人で向かい合って手を合わせた瞬間、唯人と目が合って、ふわりと微笑みかけられた。
あの後、私はハンバーグ作りに集中していたので、唯人からの告白を上手く頭の隅に追いやれていた。
なのに、そんな顔されたらあっけなく頭のど真ん中を、唯人の告白の言葉に占領されてしまう。
ご飯が喉を通らなくなってしまったらどうしてくれるんだ。
心の中でちょっと文句を言いながら、一番喉をすんなり通ってくれそうなお味噌汁のお椀を手に取った。
ちなみにさっき吹きこぼれたのは、唯人が作っていたこのお味噌汁だ。
今私が持っているお椀の中身は、最初から作り直したものだけど。
これのせいで吹きこぼれたんだろうか。
豆腐、ワカメに加えて野菜等の具材がたっぷり入っている。
ふーっと冷ましながら一口、口に含む。
その味に驚いて、私は顔を上げた。
私と律を繋ぐものなんて、真田の家と一緒に住んでた年月。
強いて言えば、あくまで「家族」としての愛情くらいだ。
「…深読みし過ぎ…」
口の中で呟いた言葉でも、この至近距離だと聞こえてしまうらしい。
「じゃあもう言っていい?」
私の言葉を受けて唯人が尋ねる。
「言うって…何を?」
唯人は両手で私の頬を包み、顔を上げさせ、真っ直ぐに私の瞳を見つめた。
いつも垂れている目尻が、ほんの少し上がっているように見える。
「真田葵さん。好きです。結婚を前提に俺とお付き合いしてください」
唯人のドストレートな言葉に、一気に耳が熱くなる。
「えっ?いや、だって、さっき…」
「忘れてって言ったのは、後でちゃんと言うつもりだったのに、お父さんに鉢合わせて仕方なくフライングしちゃったから」
「え、あの。えーと」
何て答えれば良いのか、続く言葉が出て来なかった。
何か言わなきゃと焦れば焦るほど、何も出てこない。
「YESって言って?ちょっとでも俺のこと好きなら」
こんな目で懇願されて「NO」と言える女なんて居るんだろうか。
「葵…?」
焦れったそうに頬を撫でる唯人の指に、私は陥落寸前。
唯人の視線はいつの間にか私の目から唇に移っている。
「…これ以上の沈黙は賛成とみなすよ?」
ゆっくりと近づいて来る唯人の唇の赤を、熱に浮かされたように、ただぼんやりと見つめた。
私の脳は、記憶している。
彼の唇の感触を。
優しいのに、少し強引。
まるで、唯人そのものだ。
その感触まであと数ミリ。
というところで唯人が火にかけていた鍋が吹きこぼれた。
「しまった!」
唯人は慌てて火を止め、ガスコンロの天板を布巾で拭き始めた。
「せっかく良い雰囲気だったのに、残念」
ホッとする私に向かって、唯人はニヤリと笑った。
「返事は後でゆっくり聞かせて?」
「…はい」
私は火照る頬に無理矢理気付かないふりをして、ハンバーグ作りを再開した。
テーブルに、ご飯、お味噌汁、ハンバーグ、眼張の煮付け、焼き野菜サラダが並んだ。
「いただきます」
二人で向かい合って手を合わせた瞬間、唯人と目が合って、ふわりと微笑みかけられた。
あの後、私はハンバーグ作りに集中していたので、唯人からの告白を上手く頭の隅に追いやれていた。
なのに、そんな顔されたらあっけなく頭のど真ん中を、唯人の告白の言葉に占領されてしまう。
ご飯が喉を通らなくなってしまったらどうしてくれるんだ。
心の中でちょっと文句を言いながら、一番喉をすんなり通ってくれそうなお味噌汁のお椀を手に取った。
ちなみにさっき吹きこぼれたのは、唯人が作っていたこのお味噌汁だ。
今私が持っているお椀の中身は、最初から作り直したものだけど。
これのせいで吹きこぼれたんだろうか。
豆腐、ワカメに加えて野菜等の具材がたっぷり入っている。
ふーっと冷ましながら一口、口に含む。
その味に驚いて、私は顔を上げた。
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