社長の×××

恩田璃星

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葵の決断 5

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 唯人は私を引っ張ってソファに座らせると、隣に座り、苛立ちをぶつけるかのように綺麗に整えていた頭をぐしゃぐしゃと掻き、窮屈そうなネクタイを緩めた。

 不謹慎にもその仕草、嫌いな女子なんて居るんだろうか…と思ってたらカウンターパンチが飛んできた。

 「さっきの、上手く誤魔化せたとでも思った?どうせいつもりっちゃんの車運転してるんでしょ?」

 普段穏やかな唯人の口調がちょっとキツイ。
 そして、図星過ぎて何も言えない。

 「こんなふうにして相手の言いたがらないことを聞き出すの、趣味じゃないんだけど…葵のこと…葵とりっちゃんのことになると気になって挨拶回りどころじゃない」

 「な、何言ってるんですか!?社長就任早々!ちゃんと仕事してください!!」

 「無理。それに、ちゃんと仕事だけに専念できるようにするのも秘書の仕事だよ」

 「…産婦人科の予約の手配とか?」

 「そうそう。この年でまさか弟妹きょうだいができるなんて思ってなかった…って誤魔化されないよ?白状しないと挨拶回り行かないから」

 「ちょ、それ完全に職権濫用じゃないですか!」

 「かっこ悪いことしてるのは分かってる。でもりっちゃんライバルとしては強力過ぎるし。なりふり構ってなんていられない。それくらい葵が好きだよ」


 逆立ちしたって律が言ってくれなさそうなセリフにクラクラしている場合じゃない。

 まだ時間があるとは言え、刻一刻とアポの時間は迫っている。
 こちらからアポをとっておいて、いきなりドタキャンなんてして、唯人と会社の評判を落としてはならない。

かと言って、いくらカラダの関係を持ったからっていきなり唯人と一緒に住むのもありえない。

 だから私は一つの決断をした上で、唯人に事情を説明することにした。

 「きょ、今日不動産屋さんに行ったら、預金口座とカードが止められてました…」

 「…へ?それ、まさか、りっちゃんが?」

 「の、可能性が高いと思ってます」

 「じゃ、一緒に」
 「住みません」

 少々被せ気味に言ってしまった。
 すごく残念そうな顔をした唯人が小首を傾げて尋ねる。

 「じゃあ、どうするの?」

 「…一旦帰って、解除してもらいます」

 「そんなの、絶対連れ戻されるじゃん」

 「律じゃなくて、律のお父さんに頼みます。その方が確実だし。確か今日は午後から家にいるはず。反対に律は夕方まで仕事で戻らないはず」

 そう。これこそが私の決断。
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