上 下
163 / 173

epilogue 3

しおりを挟む
戻ってきた松本さんに、ちょっと怒られつつメイク直しとベールセットをしてもらったタイミングで、式場のスタッフが挙式の開始を知らせに来た。

「じゃあ、俺、先に行ってるから。コケるなよ」

晴臣と入れ替わりでお母さんが合流し、親子三人でヴァージンロードへ続くドアの前に向かう。

ドアが開き、ベールダウンのために軽くかがむと、ずっと黙っていたお母さんが口を開いた。

「一人娘だから、ずいぶん甘やかしたし、その分過保護で、色々と窮屈だったかもしれないけど。これからは晴臣くんと幸せになってね。ずっと、愛してるわ」

今まで一度も見たことのないお母さんの泣き顔は、ベールと涙に遮られ、やっぱり見えなかった。

名残惜さを感じながらも、ブーケを手に父と歩き出せば、エスコートは意外にも完璧で。
私の歩幅に合わせ、ゆっくりと晴臣のところまで導いていく。

「…ありがとう、お父さん」

これまでの感謝を込めて伝えると、父はその場に崩れ落ちるようにして私を晴臣に託した。

そして私は晴臣と、未来に向かって歩き出し、永遠を誓って口づけた。

───そこまでは、良かった。

感動的な式後の披露宴。

光越の社長の座を捨ててまで志織さんにプロポーズしたものの、

『結婚した途端飽きられそうだから、どっちかが余命宣告されるまで婚約者でいい』

と言い放たれた新郎側主賓光城(結局、光越の会長職に収まった)の、妬みとそねみたっっぷりのスピーチに始まり。

新婦側同じく主賓の、副島さんのスピーチは、晴臣がよほど恐ろしいのか、終始涙声で震えていた。

極め付けは、ケーキバイト。

「はい、あーーーーん」

司会者の掛け声に合わせ、晴臣が私にありえない大きさのケーキを真顔で食べさせようとしたとき。

「…うっ」

急に言いようのない吐き気に襲われ、ゲストに背を向けへたりこんだ。

おかしい。
私の大好きなフルーツたっぷりのケーキなのに。

「おいっ!?千歳、大丈夫か?」

晴臣が心配そうに背中をさすってくれても、気持ち悪さは増すばかり。

ザワつく会場。

そんな中、お父さんにカメラを持たされ、最前列でシャッターチャンスを待っていた遼平くんの声がやけにハッキリ響いた。

「もしかして。ちーちゃん、…オメデタ…?」

色めき立つゲストたちをかき分け、鬼の形相をしたお父さんがすっ飛んできて、声にならない声で晴臣を問いただす。

「はるおみいぃっ!!どういうこと!?どういうことおぉっ!!?」

どうもこうもない。
心当たりはありまくりだ。

晴臣は、プロポーズの夜からほぼ毎晩、避妊せずに私を抱いているのだから。

私はもともと生理不順で、子どもができにくいと思っていたものだから、今の今まで気づかなかったんだけど。

晴臣は私の背中をに手を置いたまま固まっている。
この場をやり過ごす言い訳でも考えているのだろうか。

痺れを切らしたお父さんが、「何とか言ったらどうなんだ」と、晴臣の顔を覗き込もうとして息を飲んだ。

「100回指切りげんまんしたのに!!こんなところにこんな…」

どうやら私の背中に昨夜の名残を発見してしまったらしい。

そう言えば、結婚式まで二回目禁止とか言ってたんだっけ?
…ごめんね、お父さん。

謝ろうにも謝れないでいると。

晴臣が、突然自分の着ていたタキシードのジャケットを脱ぎ、バサリと私の体にかけた。

そして、次の瞬間―

私をすくい上げるように抱きかかえ、「病院、行ってきます!!!」と言って、脱兎のごとく走り出した。

こうして、結婚式場史上、後にも先にもない、新郎新婦不在の大宴会は、「3ヶ月でした」という連絡を受け、益々盛況なまま幕を閉じましたとさ。

―before or since 本編完ー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。

どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。 婚約破棄ならぬ許嫁解消。 外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。 ※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。 R18はマーク付きのみ。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

ドS上司の溺愛と執着 〜お酒の勢いで憧れの人に『抱いて』と言ってみたら離してくれなくなった〜

Adria
恋愛
熱心に仕事に打ち込んでいた私はある日、父にお見合いを持ちかけられ、大好きな仕事を辞めろと言われてしまう。そのことに自暴自棄になり、お酒に溺れた翌日、私は処女を失っていた。そしてその相手は憧れていた勤務先の上司で……。 戸惑う反面、「酒を理由になかったことになんてさせない」と言われ、彼は私を離してくれない。彼の強すぎる愛情表現と一緒に過ごす時間があまりにも心地よくてどんどん堕ちていく。 表紙絵/灰田様

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

イケメンエリート軍団の籠の中

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり 女子社員募集要項がネットを賑わした 1名の採用に300人以上が殺到する 松村舞衣(24歳) 友達につき合って応募しただけなのに 何故かその超難関を突破する 凪さん、映司さん、謙人さん、 トオルさん、ジャスティン イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々 でも、なんか、なんだか、息苦しい~~ イケメンエリート軍団の鳥かごの中に 私、飼われてしまったみたい… 「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる 他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」

処理中です...