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「あ…また売れちゃってる…」
会社前の街路樹はすっかり葉を落とし、肌を刺すような冷たい風が吹き荒ぶ季節になった。
遼平くんは多忙を極め切っていて、会えない日々が続いている。
父にも認められ、晴れて恋人同士になったというのに、片思いだった頃よりも遠い存在に感じてしまう。
遼平くんとの生活に備え、自分で作るようになったお弁当をデスクで平らげた後、ブックマークしている不動産サイトをチェックするのが最近の日課だ。
でも、唯一の心の支えである二人の家選びも、目をつけていた物件から売れてしまい、冒頭の呟きを溢す有様。
クリスマス…ちょっとだけでいいから会えないかな。
机に突っ伏し深いため息を吐くと、後ろからポカっと頭を叩かれた。
「真由先輩、痛いです」
「だって辛気臭いんだもの。折角情報持ってきてあげたのに」
その言葉で、真由先輩に飛び付く。
膠着状態が長引き、父にも遼平くんが多忙になった原因を尋ねてみたけれど、口止めをされているらしく答えて貰えなかった。
落ち込む私を見兼ねた真由先輩に相談して、初めての朗報だ。
「喜んでるところ申し訳ないけど、断片的な割にヘビーよ?」
それでもいい。
待つにしても、何か手掛かりがあれば、どれだけ待てばいいのか目処が立つ。
覚悟はできているという意味を込めて頷いた。
「ー百貨店からeternoの全既存テナントの撤退がほぼ確実らしくて、社長は今、他店への移転の交渉に駆け回ってるらしいわ」
「百貨店から全既存テナント…撤退…?」
想像していたよりずっと酷い。
それが現実になれば、売り上げの三分の一が吹き飛んでしまう。
「eternoの商品は、他の店のものほど高額設定されてないのに、百貨店でBAからタッチアップやカウンセリングが受けられるのが強みだったのに…社長、販路を確保するためにドラッグストアへの進出も検討し始めてるみたいよ」
冗談じゃない。
ドラッグストアを下に見るつもりはないけれど、そんなことしたらこれまで培ってきたeternoのブランド力そのものがなくなってしまう。
いてもたってもいられなくなり、販促部から飛び出していた。
真っ直ぐ社長室へ向かうと、ちょうど遼平くんがドアから姿を現した。
「りょ…社長!」
「…蓮見さん」
驚きで丸くなった目は、すぐに優しい弧を描いた。
以前より更にシャープになった頬のせいか、その表情がやけに儚げに感じる。
「ごめん。これから丁度出かけるところなんだ」
「ドラッグストアに?」
「…よく、知ってるね」
核心に切り込んでみても、遼平くんは笑顔を崩さない。
「本当に百貨店から全店撤退させられるの?どうして!?」
「……ちょうど契約が終わる時期だっただけのことだよ。悪いけど、急いでるからもう行くね。夜、時間があったら電話するから」
遼平くんは私の横をすり抜けて、足早に去ってしまった。
会社前の街路樹はすっかり葉を落とし、肌を刺すような冷たい風が吹き荒ぶ季節になった。
遼平くんは多忙を極め切っていて、会えない日々が続いている。
父にも認められ、晴れて恋人同士になったというのに、片思いだった頃よりも遠い存在に感じてしまう。
遼平くんとの生活に備え、自分で作るようになったお弁当をデスクで平らげた後、ブックマークしている不動産サイトをチェックするのが最近の日課だ。
でも、唯一の心の支えである二人の家選びも、目をつけていた物件から売れてしまい、冒頭の呟きを溢す有様。
クリスマス…ちょっとだけでいいから会えないかな。
机に突っ伏し深いため息を吐くと、後ろからポカっと頭を叩かれた。
「真由先輩、痛いです」
「だって辛気臭いんだもの。折角情報持ってきてあげたのに」
その言葉で、真由先輩に飛び付く。
膠着状態が長引き、父にも遼平くんが多忙になった原因を尋ねてみたけれど、口止めをされているらしく答えて貰えなかった。
落ち込む私を見兼ねた真由先輩に相談して、初めての朗報だ。
「喜んでるところ申し訳ないけど、断片的な割にヘビーよ?」
それでもいい。
待つにしても、何か手掛かりがあれば、どれだけ待てばいいのか目処が立つ。
覚悟はできているという意味を込めて頷いた。
「ー百貨店からeternoの全既存テナントの撤退がほぼ確実らしくて、社長は今、他店への移転の交渉に駆け回ってるらしいわ」
「百貨店から全既存テナント…撤退…?」
想像していたよりずっと酷い。
それが現実になれば、売り上げの三分の一が吹き飛んでしまう。
「eternoの商品は、他の店のものほど高額設定されてないのに、百貨店でBAからタッチアップやカウンセリングが受けられるのが強みだったのに…社長、販路を確保するためにドラッグストアへの進出も検討し始めてるみたいよ」
冗談じゃない。
ドラッグストアを下に見るつもりはないけれど、そんなことしたらこれまで培ってきたeternoのブランド力そのものがなくなってしまう。
いてもたってもいられなくなり、販促部から飛び出していた。
真っ直ぐ社長室へ向かうと、ちょうど遼平くんがドアから姿を現した。
「りょ…社長!」
「…蓮見さん」
驚きで丸くなった目は、すぐに優しい弧を描いた。
以前より更にシャープになった頬のせいか、その表情がやけに儚げに感じる。
「ごめん。これから丁度出かけるところなんだ」
「ドラッグストアに?」
「…よく、知ってるね」
核心に切り込んでみても、遼平くんは笑顔を崩さない。
「本当に百貨店から全店撤退させられるの?どうして!?」
「……ちょうど契約が終わる時期だっただけのことだよ。悪いけど、急いでるからもう行くね。夜、時間があったら電話するから」
遼平くんは私の横をすり抜けて、足早に去ってしまった。
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